2024/07/26 「幽霊の日」

「ねぇ。知ってる? うち、幽霊屋敷になってるらしいよ」

「んあ??」
同居人が変なことを言い出すので、変な声が出てしまった。幽霊屋敷?
田舎の一軒家。殺人も事故も……いや。昔は交通事故が家の前で続いたことはあったけど、今は事故もない。
思い当たることがなくて首をかしげる。

「それだよ」
同居人が私を指さす。浴衣に団扇。夏の装いをした私が幽霊だと言うのか……と思ったが、ふと、近所の子供がこの間、笑いながら走って行ったのを思い出した。あれは笑っていたわけではなくて、叫んでいたのだろうか。

「オバケだって?」
「まぁ。そんなところ。不思議だよね。民族衣装が幽霊になるって」
「言われればそうだけど。古い絵にはこういうオバケも描いてあるから、イメージとしては間違ってない」

そう言いながらも、私が着てる浴衣は赤黄色青の原色に近い派手な色だ。模様もはっきりしたものでオバケの要素は小さいように思う。

「闇の中で見てみたら? 赤い色なんて血色の着物だよ」
「なるほど。黄色はよくわからない光っている感じで、青は闇に溶ける色というところかな」

田舎では街灯も少ない。ぼんやりとした光に浮かぶ姿が幽霊に見えるのはわかる。時々、花火を見に外に出ることもあるので、その時かなと思う。

「面白いね」
面白いのかどうなのか。幽霊本人としては『よく見ろ』と言いたくなるが、見えないから幽霊なのだろう。

「みんな、浴衣を着たらいいんだよ。涼しいのに」
「着るのも、洗濯も面倒って言ってなかった?」
「うん。面倒だよ。だから、夏だけ」

同居人が少し考える。

「だから、尚更、幽霊っぽいんじゃないの? 夏だけに見えるよくわからないモノ」
「そう言って、面白がってるだけでしょ」
幽霊なんて案外そんなものかもしれない。これで、私が死んだら本当にこの家は幽霊屋敷になるのだろうか。

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