2024/07/27 「スイカの日」

グシャ

思ってもない音が響く。私は目隠しをとった。目の前にあったのはスイカではなく、トマトだった。周囲がくすくす笑っている。

「もったいなーい。食べたら?」
スイカはリーダーの向こう側に隠されている。

言いかえそうとした言葉を飲み込んで私は持っていた棒を無言で振り上げた。そのままその場にいた子たちを叩いていく。大人が走って来るのを見て、私は棒を捨てて走り去った。

つまらない。下らない。準繰りのいじめ。


「スイカ、いる?」
そう声をかけられて顔を上げると、いとこのおねーちゃんがスイカをひと玉持っている。確か今は一人暮らしだったはずと首をかしげる。

「ああ。うちにもう一人いるよ。さすがに二人だけで分けようっていう話じゃないし。……数日、かかるかな」
おねーちゃんが苦笑いで答えた。
「お友達?」
「んー。友達って言うか、同居人?」
疑問形で返ってくる。一軒家の一人暮らしだけど、部屋はたくさんあると言ってたような気がする。
「余ってる部屋を貸し出してるの?」
「そうじゃなくて、一緒に住んでる。共同生活。食事は別だし束縛はしないけどね」
「恋人?」

私がそう聞くと、おねーちゃんはきょとんとする。
「そっか。そんな事を聞く歳になったのね」
とたんに年寄り臭い感じがして私は眉をしかめる。
「子ども扱いしてる」
「そうじゃなくて、大きくなったなぁって……あ。これが子ども扱いか。だって、あんなにちっちゃかったのにこんなに可愛げがなくなって」
「酷い」

私の呟きにおねーちゃんが笑う。おねーちゃんは逆にずっと子供みたいだ。

おねーちゃんの家に入るのは初めてだった。そこには金髪のおにーさんがいた。おもわずおねーちゃんの影に隠れてしまう。

「こんにちは。えっと」
おにーさんがこちらに向かって笑いかける。
「いとこどの。こっちは同居人」

おねーちゃんはいつものように雑に紹介する。私の事はいつも「いとこどの」と言っている。言われた方は首をかしげるのも一緒だったが、今回は少し違った。

「いとこどのさん?」
さんが付いてしまった……それは何か違う。
「いとこです」
「ああ。いとこ。血縁者。えっと。親の兄弟の子ども」
おにーさんに手を差し出すと掴まれてぶんぶん振り回された。

そうこうしてるうちに、スイカが切られて出てきた。

水瓜みずうり?」
「スイカ」

おねーちゃんが即座に訂正する。日本語に疎いのか詳しいのかよくわからない間違いをするなと思いながら、だまってスイカを頬張る。
甘いスイカは先ほどまでの事を全て忘れさせてくれた。

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