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源泉回顧録【塩原~南会津④完結 古町温泉から甲子温泉】

<前回はこちら>

 ※この記事は2020年2月の日記を元に、加筆修正をしたものです。

 南会津町から、「塔のへつり」や「大内宿」などの名所を持つ下郷町方面へ。木賊温泉にて2時間の長湯を計算していたため、昼過ぎにはかなり時間を持て余してしまった。

 北上しつつ、途中立ち寄ったのは「古町温泉 赤岩荘」。
田園地帯に囲まれた国道から、鮎釣りの名所伊南川沿いへ向かうと、ポツンと平屋の施設が現れる。長閑な風景に似合わず、ここでは赤褐色の超濃厚な強塩泉が味わえる。内湯と外湯があり、何れも53度の源泉がかけ流しだ。

 まずは内湯へ。個性的な黄土色と、金気臭と海水が合わさったような香りは、パワーを確認するには十分過ぎるほど。入ってみるとなかなかの熱さだ。額から汗がぽたぽたと落ち始め、5分ほどでぐったりしてしまった。

 外気にあたろうと、こんどは露天風呂へ。青空の下だと更に際立つその黄土色。脱衣所から湯船までのアプローチ。湯の析出物が固形化し鱗状に段々畑を形成している。源泉の強力さを物語る。
 浴槽は2つに分かれており、湧出口に近い方が熱湯、遠い方が温湯になっている。加水をせず、あくまで湯量調整で100%かけ流しに拘った湯の造りだ。

 鮮度の良い熱湯に出たり入ったり。この施設で暫く時間潰しをしようという算段だったが、無理そうだ。赤岩荘の温泉はそれほど強力だった。成分と湯遣い、共に素晴らしかった。


 普段の湯巡りでは源泉に浸かることに集中し、ほとんど観光らしきことはしない。だが流石に何もすることがなく天然記念物「塔のへつり」に寄ってみた。

 国道121号線から横道にポキンと入り、一本道を下って行く。西会津駅~会津高原尾瀬口駅までを結ぶ会津線、単線の踏切を超えると一気に森の中へ吸い込まれるようだ。

 道の両サイドに駐車場の誘導員がおり、手招きしながら有料駐車場へと案内している。どこに停めようかと左右を見ながら進むとドン突き、「へつりガーデン」という食堂兼土産屋に到着した。本丸塔のへつりの最接近、ここは無料の駐車場だった(危ない)。

 こちらでもキノコ汁の無料サービスがあった。数時間前に通ってきた奥塩原の「百姓家」に続き、この日2杯目をいただく。

<前々回に登場>

 塩原で食した物と寸分の狂いもない味。どうも気になり店主と思われる方に伺うと、何と塩原の店もこの方が経営してるそうだ。暖冬とは言え2月、温かさが身に染みる。

 身体が暖まったところで天然記念物を鑑賞。長年の歳月による侵食と風化により造られた断崖は圧巻だった。温泉のことばかり考えているためか、景勝地や美術館などあまり興味がない質だが、ここではゆっくりと時間を潰せた。


 ここからは東へと向かい、天栄村にある二岐温泉を目指す。
開湯969年、薬湯として親しまれてきたこの温泉地。最寄りのコンビニからは車で20分。一本道を奥へと進むと数件の宿が姿を現した。
 まさに「秘湯」という言葉がピタリと合う。実際に江戸時代までは、入浴できるのは役人や武士階級などに限られていたそうだ。
 
 二岐温泉には、日本の秘湯の雄「大丸あすなろ荘」や、足元湧出泉の自家源泉を保有する「柏屋」などの名旅館が揃う。その中で今回宿泊する「桂祇荘」は、一人素泊まり可、休前日でも予約を受けており4千円~のプランも登場。100%かけ流しの自噴泉を堪能できる、湯巡り族には有難い旅館。

 内装も綺麗に手入れされており、案内された部屋もいかにも旅館らしい純和室。山深い地ではあるがwi-fiも飛んでいた。だが、休みの日はスマホの電源を切り湯に浸かることに集中する。
 少々熱めだが、無色透明の硫酸塩泉は石膏臭を帯びている。美肌成分もハッキリ感じさせ、一晩で5回に分けて入浴を繰り返した。

 
 翌朝は9時にチェックアウト、帰り路にもう一湯立ち寄る。
甲子道路の開通によりアクセスしやすくなった秘湯「甲子温泉 旅館大黒屋」。温泉ファンにはあまりにも有名な当旅館。少々高級感のある宿とあり、宿泊は手が出ず日帰りで数回訪れていた。

 メイン浴槽は「大岩風呂」。縦5m×横15mの広さに、膝を「く」の字に曲げれば首元まで浸かれるほどの深さが特徴。
 湯底の岩の割れ目からぷくぷくと上がる33度の源泉と、浴室内の鳥居の入口から落とされる45度の混合泉。150年の歴史を誇る内湯は天井梁が露出しており、その美しさは目でも楽しませてくれる。

 オープンアタックを決めようと駐車場に着いたのは9時50分。この日はかなりの雨が降っていた。館内に待合があり、雨宿りをさせてもらえぬかと玄関を通る。
 日帰り受付は10時からだが、「お足元の悪い中ありがとうございます」と、少しフライングだが湯に通していただいた。

 「もしかしたら、、」

 少し速足で大岩風呂の戸を開けると、なんと誰もいない。大岩風呂を独泉だ。人気宿とありいつも混み合っていたこの浴場。誰もいない一人の時間、思わず天を仰いだ。広い浴槽を贅沢に使い、リハビリの歩行浴なども行う。
 
 だが10分もすると後客がぞろぞろと現れ、すぐに混み始めてしまった。
短い時間だったが、やはり独泉は格別のものだった。

 大黒屋で1時間を過ごし、これで本旅も終了。

 塩原からの南会津へ。少々忙しないが個性的な共同浴場に、誰もが憧れる名宿の湯も堪能。木賊温泉の復活が待たれるが、またいつか同じルートを旅したい。それにしても、豪雪地帯の2月。全く雪が降っていなかったのが驚きだった。

 
                           令和2年2月頃


 ※古町温泉「赤岩荘」と甲子温泉「旅館大黒屋」。
それぞれ南会津町HPと、旅館の公式サイトから写真をお借りしました。

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