見出し画像

難病営業マンの温泉治療⑮【ふけの湯・藤七温泉】

<前回はこちら>

 後生掛温泉を3泊滞在の後、進路は南東へ。次宿は往路でも訪れた岩手県花巻で押さえた。これより少しずつ家路へと向かって行く。

 玉川温泉に滞在中に治まった持病の鼻炎は再発の兆しはなく、一時崩れかけた体調も次第に好転した。地熱により身体が断続的に暖められたからだろうか。

 私は昔から眠れない時は身体を冷まそうとする癖がある。度々身体の深部や筋肉が異常に熱を持ち、多汗症も抱えている。“暑いから眠れない”と考えていたのだ。
 どうも体温調節の不具合は全身痛を遠因とする自律神経の乱れによるもの。痛みがなくなるのがベストだが、これとは長い付き合いになるだろう。温泉を上手く使いながら自体をコントロールすることが、今できる最高の対処療法のようだ。

 費用のかかることなので他人には安易に勧められないが、出発から3週間以上経過して宿代は10万に遠く及ばない。
 昨年11月のこと。極度の全身痛からベッドレスト状態になり、担ぎ込まれたとある大学病院。1週間の入院で多額の医療費を支払い、結局「何もなし」と言われ放り出されたことがある。まともに歩くこともできず、入院当初車椅子で移動していたのにもかかわらず・・・

私  「では何故15年も前から身体が痛いのですか?」
   「低白血球とは関係ないのですか?」
医師 「いや、でも何もないので」

 何という厚顔振り。お粗末な対応に怒りが鬱勃したが、その後他院にて判明した病名は「線維筋痛症」。どうやらほとんどの罹患者は同様の扱いをされ転院を繰り返すそうだ。
 一時は社会復帰を諦めたほどの病症。ここまでの体質改善を考えれば無駄な出費ではないと自分では思っている。


 八幡平最終日は抜けるような好天だった。標高1,000m、日光を遮るものは何もない。まさに雲散霧消。わずか数週間前、前途暗澹だった日々を忘却させる見事な青空。自分には勿体ないと思われるほどだった。

 盛岡方面へ向かう道中、八幡平の余韻に浸る様に個性派源泉に2湯立ち寄り。アスピーテラインを東へ、横道へ逸れヘアピンカーブを駆け上がる。秘湯一件宿に到着した。ここは日本を代表する秘湯「ふけの湯」。およそ3年振りの訪湯だ。

 後生掛温泉と同様オンドル浴がいただける名宿。スマホの電波は県外を示していたが、館内はwi-fiが完備されていた。かつては湯治場色が強かったようだが、公式サイトを見ても自炊棟はない。宿泊地の候補の一つではあったが予算の問題から今回は見送った。(ライダー向けの素泊まり6,000円のプランは確認できる)。

 現在内湯は日帰り入浴では受けておらず、露天風呂のみを拝湯。前日は降雪のため入浴ができなかったようだ。
 受付で600円を払い、数百メートルの山道を歩いて源泉へ。新緑のブナの木の足元には白雪が残り、広遠に続く雲一つない蒼穹。絶景大露天と呼ばれる湯は数多と巡ってきたが、これまで開放的な景色は記憶にない。
 山頂から山麓まで360度パノラマビュー、八幡平の代名詞溶岩からの噴煙が至る所から上がる。


 混浴露天の枡風呂に向かうと先客2名。北海道出身の夫婦が浸かっていた。こちらでは湯浴み着を着用しての入浴ができるので、海水浴の様に男女入り交じり源泉を楽しむことができる。こちらの夫婦は趣味で車中泊をしながら湯巡りをしているそうだ。景色はここが一番だという。

 泉質は単純酸性泉。88度にもなる源泉は加水あり。成分自体はそれほど濃くないものの、色は日光が反射し見事な青濁色だった。湯は40度ほどか、絶景に飽きることなく疲れも来ず、1時ほどの浸湯となった。

 ふけの湯から更に盛岡方面へ、県境を越えて秋田から岩手へ入る。次湯は標高1,400m、東北地方最高地にある「藤七温泉 彩雲荘」。ツーリング客にも人気のある宿だ。
 こちらも前湯に負けず劣らず超絶絶景。冬季休館のためまだ今年は営業を開始したばかりのようだ。

 内湯の扉を開けると見えてくるのは、野に投擲されたように点在するワイルド系露天風呂の数々。それぞれサイズや温度に違いがはあるが、こちらの湯は全て泥湯。しかも希少泉の足元湧出だ。

 過去いくつも入ってきた足元湧出泉。浴底から時折ポコッと気泡を上げ、浴底から押し上げられた湯がオーバーフローする。ところがこちら藤七温泉のその湧出力は半端じゃない。スーパー銭湯等で見られるようなジャグジーの如く、途切れることなく湯底からボコボコと打ち上がる。身体が浮かび上がりそうなほどの揚力。天然記念物として国を挙げて守り抜いてほしい八幡平の宝だ。

 時々激熱の泥が噴出するため火傷には要注意だが、天然泥パックに浸かりながらの全身気泡マッサージは気持ち良さから退湯のタイミングを逸する。
 こちらでも湯浴み着を着た女性と同浴。出張で盛岡から来たついでに寄ったという。

「ここは一度入ったら出れないのよね」

やはり同じことを考えていたようだ。


 ふけの湯と藤七温泉の滞在時間計2時間。久々に直射日光を浴び続けた結果、肩から上は真っ黒に日焼けしてしまった。少し健康になった気がした。
単純な脳みそに思わず嘲笑。


                           令和3年5月15日

<次回はこちら>



宜しければサポートお願いいたします!!