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長野県 諏訪~蓼科温泉逍遥②【毒沢温泉~渋辰野館】

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※この記事は2020年8月の日記に加筆修正したものです。

 本来ならば2020東京オリンピック閉会式のこの日。そして入れ替わる様に、夏の甲子園が盛りになる頃。まさかこんな事態になるとは。私に残されたこの夏の唯一の愉悦。もう、あれしかない。

 「冷鉱泉」

 10年以上続く身体の異常。痛みがない日などない。
手足の末端は壊死したように冷え切っているのに、体幹部だけは何故か焼けるように暑い。やっと眠りについても暑さで2時間毎に目が覚め、冬であっても真水のシャワーを浴び身体を冷ます。

 真夏ともなれば、氷嚢とアイス枕と冷えピタで何とか体温調節し眠りにつく。厄介なこの身体、もう血液が正常には流れていないのだろう。そんな中、真夏の冷鉱泉は渡りに船の存在。 

 
 激熱「旦過の湯」を出て、流れる汗も引かぬまま向かった先は下諏訪最奥地「毒沢鉱泉 神乃湯」。甲信越地方に点在する【武田信玄の隠し湯】の一つ。戦国時代に各国の武将が奪い合った温泉。傷を負った自軍の兵士の治療のために湯守を立て、その源泉の管理を命じたそうだ。

 上杉謙信の猿ヶ京温泉、徳川家康の熱海温泉、豊臣秀吉の有馬温泉などなど。すっかり観光地化され、彼らが傷を癒したそれとは様変わりしてしまった風の湯も多いが、信玄公の隠し湯には名湯が多い印象だ。

 
 毒沢鉱泉は現在も超個性的な源泉がそのまま残されており、「神乃湯」は日本秘湯を守る会にも所属する名宿。「毒」とは少々おどろおどろしいネーミングだが「見て・入って・飲んで」納得の湯。
 
 鉄屑の様な湯花が混じる茶褐色の源泉は、何と泉温「2度」。私の知る限り最も低い温度だ(湯が張られた鉱泉浴槽は恐らく浴用15度くらいになっている)。昭和初期には医薬品として販売されたという源泉。その効能の高さから一般階級が押し寄せない様、敢えて「毒」という名を付けたという説もある。

 湯口からチョロチョロと落ちる鉱泉。使い捨ての紙コップが添えられており飲泉が可能。飲んでみて「おいしい」と思う湯などほとんどないが、ここの不味さは出色。口に含んだ瞬間条件反射的に噴き出したくなるほど。
 レモン汁に腐鉄を溶かしたような癖のある味はしばらく後味が残る。「良薬口に苦し」、いかにも効きそうだ。

 源泉浴槽は狭く一人しか入れない、真夏日とありなかなかの人気ぶりだったが、ミーハー客はおらず皆良識のある方々だった。暗黙の了解で順番で譲り合いながら90分、40度の加温浴槽と交互浴。身体の火照りが取れ、だるさも少し落ち着いた。


 13時、今度は諏訪湖を右手に畔路を南下。昼食に選んだのは地元民のソウルフードと言われる「ハルピンラーメン」。
 中国の哈爾濱市と何の関係があるのかは不明だが、諏訪~茅野市を中心に4店舗を構えるこの店。週末となると連日行列を作る人気店のようだ。
 
 本店駐車場に到着すると駐車場は入庫待ちの状態。暫く近辺を周遊すると1台空が出た。店に入るとすぐに奥のカウンターに通された。最近テイクアウトを始めたようで、列を作っていたのは持ち帰り客のようだ。

 待つこと10分で着丼。出てきたラーメンはどのジャンルとも形容しがたい超濃厚スープ。その濃さからか、何故か食前と食後に口直しのジャスミンティーが出てくる。なかなか中毒性のある旨いスープだった。
 
 「塩分の取り過ぎか?」
 「いやっ、これから温泉で汗を流すから大丈夫」
 
 そう自分に言い聞かせ、旅に出るといつもラーメンを食べる。



 こからは一気に八ヶ岳登山口、標高1,900mを目掛けアクセルを踏む。14時過ぎ、日帰りで立ち寄ったのは「渋・辰野館」。創業100年を超える名宿だ。少々高級志向の宿で宿泊は出来ず。日帰りでの立ち寄りは2年振り。

 こちらも信玄公隠し湯の一つ。源泉温度18度の青々とした冷鉱泉をかけ流しで拝湯できる。メイン浴槽「信玄の薬湯」は、毒沢鉱泉同様、源泉浴槽と加温浴槽の交互浴でいただく。

 畳3畳分ほどの木枠の浴槽は深さ90㎝。打たせ湯の様に、2m程の高さから源泉がドバドバと打ち落とされ、滝壺の如く飛沫が舞う。加温風呂で身体を温めてからこの湯船へ。ちょうど立禅の恰好で膝を「く」の字に曲げて名泉をしっかりと効かせにいく。

 湯底には湯花が沈殿しており、足が「ズボッ」と沈む。サッカーボールを蹴る様に湯底を掻き上げると、湯花が一気に舞い上がり白濁泉に変色した。良い源泉は目でも楽しませてくれる。
 1時間程の交互浴、見事に効いてくれた。頭も身体もスッキリ、これで暫く身体は持ちそうだ。


 近くには茅野市を代表する観光スポット「御射鹿池」ある。風光明媚な水面には、背景の山々が逆さに映り、何とも幻想。そちらからここへ立ち寄ったという若者2人。源泉浴槽に足を入れると「水風呂だ」と言ってすぐに出て行ってしまった。

 もったいない、信玄公が隠した源泉は、この冷鉱泉なのに・・・
まあ、旅を楽しめたのなら、それで良いか。

    
                           令和2年8月10日
                        

渋辰野館
楽天トラベル様から拝借 毒沢鉱泉「神の湯」
ハルピンラーメン

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