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難病営業マンの温泉治療⑫【古遠部温泉】

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 玉川温泉を10時にチェックアウト。次宿のチェックインまでの5時間。この時間の使い方はいつも頭を抱える。
 
 湯巡りを始めた当初は体力があり、多い日は5~6件立ち寄り湯を巡るのが通例だった。だが温泉が保養から治療へと役割を変えるに連れ、身体に負担がかかり過ぎないよう多湯は控えている。

 源泉のパワーを体感するために、今は1時間以上はその施設に滞在する。ゆっくりと浸かることにより、その価値の熟得できると考えている。現在は立ち寄りは多くても2カ所を寄る程度に留める。

 この日はやっと晴れ間が出ていた。
数日間不眠に苦しみ体調は万全とは言えないが、暗然とした気持ちを捨てきらんと次浴を追った。まずは街へ出て食料品の買い出しへ。

 八幡平方面から北上し到着したのは秋田県鹿角市の中心街。東北の駅百選にも選ばれた「鹿角花輪駅」周辺。ここにはスーパーやドラッグストアが林立しており、一通り食料品を買い揃えた。


 この時点で11時、どうも時間が中途半端だ。
青森に入り、十和田湖・八甲田周辺まで行けば「酸ヶ湯温泉」「蔦温泉」「谷地温泉」など垂涎ものの超良泉が待っている。

 だが八甲田に行くには2時間と少々遠い。
日本の秘湯系野湯の頂点に立つ奥奥八九郎温泉は距離的には許容範囲。だが10キロ近いオフロードを走る必要があり、連日降り続いた雨の心配もありこちらも見送ることに。


 そこで追懐し舞い降りてきたのが【古遠部温泉】。
青森県最南端は平川市碇ヶ関。1時間以内で行ける範囲内、時間を潰すにはちょうど良い距離だ。

 遂に日本列島最北端青森県へと向かう。昼食を取ろうと周囲のグルメ情報を検索した。道中の中間地にあたる小坂町にてご当地グルメがヒット。そのメニュー「カツラーメン」。

 取って付けた感は否めないが、一般的な醬油ラーメンにカツカレーの如くカツが浮いている状態だ。口コミの評価が高い「とんかつ栗平」にお邪魔することに。

 10分足らずで着丼。見た目は本当に“カツが乗っているラーメン”だ。
レトルトカレー生活が続く中での有難き一食。見た目以上でも以下でもないが、もともとラーメンも人気の様で普通に美味しくいただいた。ボリュームにも満足、850円也。


 こちらから更に進むこと30分。喬木生い茂る山道を登り最後はオフロード。ポツンと一見、平屋の鄙び系宿が見えてきた。

 
 ちょうど12時過ぎ、古遠部温泉に到着。奥には食堂らしきものがあり湯治客が食事をしているようだ。呼鈴を鳴らし女将さんに350円を支払いいざ浴場へ(以前は320円だった)。
 
 脱衣所の戸を開けると昼食時間とあり誰もいない。見事独占に成功した。男女別内湯しかない小さい造りだが、そこには毎分500ℓの濃厚源泉がドバドバとかけ流しにされている。贅を尽くした素晴らしき湯遣いに思わず頬が緩む。

 前訪は8月だったため激湯の印象だったが、かけ湯をするとそこまでではなかった。温泉は日によって温度や色まで変化するから面白い。一湯一会を大切にする気持ちを持ち続けたいものだ。

 
 赤褐色の源泉に勢いよくダイブを決める。今回は42度位だろうか、見事適温だ。だがパワフルな塩化物泉に身体は反応。1分程で頭皮からじわっと汗が流れてきた。睡眠不足も祟り10分程浸湯していると流石にクラっと来てしまった。


 でも時には倒れても良いのだ。完璧な人間など存在しない。
躓き、立ち止まり、悩みを抱え、一生は重きを負うて遠き道を行くが如し ―ー

 こちら古遠部温泉の伝統的入浴方、それは【トド寝】。
 通常の浴場ではタイルに横たわるのは当然マナー違反。だがこの浴場にはトド寝専用の木枕とマットが備えられているのだ。湯の成分が沈着し赤褐色の段々畑と化した床。
 
 マットを轢き木枕をセット。ゴロンと背中を着けて閉眼。ドバドバと湯口から湯表に叩きつけるような源泉音と、さらさらと流れる湯音だけが浴場に響く。
 
 オーバーフローした源泉は40度くらいであろうか、背中をあたため籠った蒸気はほのかな鉄臭を帯び、全身を包み込むようだ。暫く忘我の境に入り、煩悩が汗と共に流れる。

 あまりの気持ち良さとここ数日寝不足が合わさり、数分間だが静かに眠りに堕ちていた。待っていた会心の眠りは、列島最北端青森県でやってきた。


 こちらの宿、3泊以上で素泊まり宿泊ができるようだ。しかもその値段3,000円。ただし布団を含めアメニティ類は全て持ち込み。いつかは湯治してみたいが、wi-fiは愚かスマホ(au)の電波が全く入らないという超絶秘湯。残念ながらテレワークは無理そうだ。

 私も時折全身の激痛から気分が落ち込み、電波から解放されたくなることがある。近年で通電状態は飛躍的に良くなっているが、あえてそのようなニーズに応えるために異郷空間を残しているのかもしれない。

 古遠部はそんな“電波入らない系”の湯でもあった。湯治はここが最北。徐々に南下し八幡平方面へ戻る。


                         令和3年5月12日

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写真は平川市観光協会のHPからお借りしました

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