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難病営業マンの温泉治療㉟【滑川温泉福島屋】

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 姥湯温泉を出て今度は急坂を降りる。ここへ来る5キロ手前にY字路があった。他方へとハンドルを切ると、姥湯と双璧をなす秘湯「滑川温泉 福島屋」に到着。湯治棟があるのでこちらで宿泊することにした。
 米沢市街地から車でおよそ1時間、標高850mに達するこの宿。9泊からの長期滞在プランも登場し、1泊料金2千円台と格安で宿泊できる。
 開湯はおよそ300年前、米沢の郷士が足を滑らせ、温かい湯に触れ温泉を発見したことからこの名が付いたという。

 名湯には付き物の開湯伝説。古くは日本書紀や古事記、万葉集などに登場する、道後温泉(愛媛県)、有馬温泉(兵庫県)、白浜温泉(和歌山県)など、歴史のある温泉には必ず動物や要人の発見伝が残っている。これらは湯への造詣をより涵養させてくれる。

 この宿には旅館部もあり、そちらは通常の2食付きのサービスが受けられる。「日本秘湯を守る会」にも所属する人気宿だ。
 日本秘湯を守る会は、昭和50年創設の古参組織。「秘湯」という造語を生み出した故岩木一二三氏の提唱により参集された、近代化される旅館業とは一線を画したコンセプトを旗に掲げる会派だ。

 現在も100件近くの加盟宿が所属しており、秘湯系温泉の宿選びの際にはこちらのサイトを覗いてみても良いだろう。独自のスタンプ帳があり、10個貯めると宿泊した宿の中から1泊無料優待を受けることができる。
 専ら最近はボロ宿湯治場にお世話になることばかりだが、湯巡りを始めた当初、安定した良泉に浸かれるのでかなり多用させていただいた。

 
 前回は日帰りでの立ち寄りのみ。湯治棟に入るのは初めて。下見がてら2泊で枕を借り、居心地が良ければ延泊することにした。 
 宿に到着し、まず目に飛び込んでくるのは自家発電機。東北電力の電気はここには届かず、宿の前を流れる川の水を利用して発電機を回す。「ゴゴゴッ」という音が地鳴りの様に鳴り響く。
 写真を撮ろうとスマホを取り出すと電波は4本立っており、Wi-fiも繋がった。4年前は確実に圏外だったはず、新たに電波塔が建てられたようだ。

 チェックインを済ませ、台所周りを調査。自家発電のためこちらには冷蔵庫がない。野菜類や生物の持ち込みは難しそうだ。廊下に冷凍庫があったが、これは保冷剤専用。それ以外の物を入れると宿に没収されてしまうのだそう。流石にクーラーボックスまで持ち合わせておらず、ここではレトルトご飯とチキンラーメン生活になりそうだ。

 小さい流し場があり、コンロは10円投金スタイル。火は問題なさそう。だがその後館内を散策するも、電子レンジがないことを知る。自家発電なので致し方なし。湯煎ものの料理しかできず、なかなかハードな滞在になりそうだ。食器類の備え付けもないようだ。
 
 私は一式持ち合わせていたが、一人の老婦が台所でオロオロしている。祖母ほどの年齢だ。持病の治療で初めて湯治に来たという女性、食器がなくて困っているのだという。
 車に積み込んでいた紙皿や使い捨てスプーン、割箸を寄付すると合掌して感謝をされた。湯治生活では私の方が長上のようだ。
  
 部屋との仕切りは襖、テレビなし外鍵内鍵なしのオールドスタイル。慣れたものでこの辺りは不便さは感じなかった。だがやはり気になるのは食事の栄養バランス、2泊が限界か。勿論、宿に頼めば夕朝食は付けられるがそれでは完全に予算オーバー(費用が倍以上になってしまう)。今回は少々準備不足を反省した。


 続いて源泉へと向かう。混浴内湯と混浴露天(女性専用時間帯あり)、女性内風呂、檜風呂の4ヵ所。3本の自家源泉を保有し、乳白色の濁り湯が全てかけ流しで配湯されている。

 姥湯の隣宿とあって陰に隠れがちだが、こちらの岩の露天風呂も刮目すべき絶景。宿を一度出てから外をしばらく歩くと、巨大な浴槽が見えてきた。
渓流を眺めながらの入浴、泉温は他の浴槽よりも低く40度程度か。森林浴と源泉浴をダブルでいただける良泉。天気が良ければきっと出るタイミングを失ってしまうことだろう。

 私が最も気に入ったのは混浴内湯。10人ほどが入れる浴槽、天井が高く見上げると木の梁が何とも美しい。ドバドバ系かけ流しの浴槽、こちらが一番フレッシュさを感じられる。温度は42度ほどの適温、シャワー等ないので、上がり湯(源泉)を使用して身体や髪を洗う。身体にほんのり源泉の香りが残るが、不快感のない硫黄臭だ。
 
 滞在中は1日3度ここに浸かった。出発前に抱えていた左膝の激痛は、ここ数日で完璧に治った。 
 
 姥湯温泉と滑川温泉はセットで回る観光客も多い。冬季は閉業となるが、秋口の紅葉時期はまた違った風情を楽しめるだろう。どうせなら日帰りじゃなくゆっくり、だけど予算は抑えたいという方はこの宿の自炊棟はかなりお勧めだ。

 くれぐれも、運転は気を付けて。


                                令和3年6月3日

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