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八月の湯治①【決意の出立 非接触の宿】

 8月初旬に2度目のワクチン接種を終え、副反応が出たものの大事には至らず。腕の腫れは前回の方が酷かった。

 <ワクチン接種後の様子>

 
 だが初回同様、やはり神経の不具合が残ってしまった。2日続いた高熱により、まともに眠れなかったことが原因だ。
 一度狂うとなかなか戻らない睡眠障害。安定剤や睡眠薬は履いて捨てるほど持っているが、薬害に苦しんでからは「悪魔の薬」「地獄への入口」に見えてしまう。なかなか寝付けぬ日々を悶々と過ごす。
 
 次回の大学病院への受診は8月4週目。予約の都合で飛び石になるが、血液内科と神経科にそれぞれ罹る。今の病院は信頼しているが、かと言ってすぐに特効薬が見つかるとも思えない。連日の猛暑とあり体調が心配だった。


 経験上不眠と全身痛は正比例、そして発作は突如訪れる。
ようやく眠りについた瞬間、いきなり瞳孔が開き、身体が硬直して動かない。エアコンの空気や服が触れているだけでも、脳天を突き刺すような激痛が走る。

 ジリ貧状態から脱するべく処方薬を投じるも焼け石に水。数時間夢遊病状態が続き、やっとウトウトとし始めると悪夢が。ボウガンで撃たれ、ナイフで刺される。恐ろしさから再び瞳孔が開き、一睡も出来ぬ日々が続くのだーーー


 
 7月上旬、1度目のワクチン接種後。
数日間の不眠症状と焦熱症状を感知し、熟慮の末福島県「磐梯熱海温泉」に発った。9日間の湯治の効果は覿面で、日を追うごとに体調は快復していった。
 10年以上の闘病生活でやっと診断が付いた病名。未だ解明されていない謎の病「線維筋痛症」。明確な治療法も良く分かっていない。だが今まさに、その治療法を自分の手で掴みかけているところだ。


<その時の記録>

 
 2度目の接種から数日後、私が事前に押さえていた湯治宿がある。

 数年前から何度か訪れており、その源泉のパワーは入った瞬間に感知できるほど強力。泉温は21度、上がり湯との交互浴で効かせれば、翌日にも効果が出ることは経験済みだ。


 その隣には日本の湯治宿の代表格とも言われる旅館がある。
寛解困難とされる大病を次々と治すことで知られ、所謂「友の会」の存在も確認できる。

 初めてこの宿を訪れた時のこと、次々と訪れる湯治客の姿に私は言葉を失ってしまった。
 宿の離れにある源泉浴場には、すぐ隣に神棚が祀られていた。湯治客は数珠を持ち、両膝を付きながら参拝している。手術痕が生々しく御身体に刻まれていた。

 2泊滞在し、数名からの方から話を伺った。
私は他の湯治客に比べ若いからか、「どこが悪いの??」と声をかけられ、それから会話が始まる。
 やはり多くは病後の治療、特に癌を患った方々だった。こちらでは食堂で湯治客が一堂に会す。中には若い方の姿も、抗がん剤の副作用を隠すハンチングに一瞬胸が詰まる。

 私も今となっては湯治場に行けば必ず近くの温泉神社通う。毎日参拝し、深々と頭を下げる。病が治るのなら泥水だって飲む覚悟だ。だが初めて見た本格的な湯治場の姿、異郷空間に少々戸惑ってしまった。もう5年以上前の話だ。



 今回押さえたその隣の宿。車で走っていると民家と見紛うような小さい旅館。女将さんが一人で切り盛りしており、部屋は4部屋あるが半分は使用していない。いつ宿泊しても客は私一人しかいなかった。
 
 内湯が一つしかないこの宿、風呂は1時間単位の完全貸切制だ。
食事も夕食は提供されず、朝食付きプランがあるがこれも部屋食。

 元々一人で行うのが基本の湯治生活。他人との接触は限定的で、マスク着用にて入退館時の手続きでしか会話をしないことも少なくない。だが昨今の情勢、脱衣所や風呂場での会話にも神経を使わねば。
 
 そこへ来てこの宿は渡りに船だった。他の客がいたとしても、一緒に食事はすることなく風呂場でも接触する機会はない。


 完全隔離の宿、女将さんと2人の共同生活が始まろうとしていた。


                           令和3年8月6日

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