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青いもみじの下、キミとの電話


それはまだ、キミが恋人だったころ。


5月の昼下がりに
私はキミに電話をかけた。

いつもの公園。ベンチにひとり。
清々しい天気がかえって虚しく感じるのは
さっきまでの母との口げんかで
落ち込んでいるせい。
仕事への迷いと将来の夢、
私の考えはやっぱり甘いのかな。



キミは私が話終えるのを待って
言葉を返してくれた。


***

きっとね、
どっちも間違いじゃないと思うんだ。



人ってみんな
自分の経験してきたことしか
判断材料にできないからさ、

違う人生を歩んできたふたりが居たら
違う考えに行きついちゃうのが
当たり前なんだよ。
それはもちろん、家族であってもね。

近しい関係であるほど
自分の気持ちをもっとわかってくれるはずだって
もどかしくなるけど、
お母さんにはお母さんの
ちあきにはちあきの思う「正しい」があって
それはどっちも間違いじゃないんだ。



相談にのってもらうっていうのは
相手の選択肢を教えてもらうっていうだけで
最後は自分が正しいと思う方を
自分で決めるってことが大切だね。


まあ、、、それが難しいんだけどさ。
自分の判断だけでは不安だから
相談したくなるんだし、
そういう時は
他の人の意見の方が正しいように
聞こえてしまうよね。



ただボクはね、
誰かの意見を全て真に受けて
自分が経験できることを狭めてしまうのは
もったいない気がしてる。


その人はボクがやりたいことを
実際全部やったことがある訳でもなくて、
ボクがやったのとその人がやったのでは
きっと違う結果になるだろうから。


ボクがドイツへ留学した時もね、
実は両親には最後まで言わなかったんだ。
ふたりとも保守的な考えの人だから
色々言われるのは目に見えててさ。
絶対に行こうって、決めていたから
行く段取りがまとまってからの
事後報告だったよ。


親ってさ、
『平凡でいいから元気に過ごしてほしい』
って思うのと同時に
『元気に過ごせるなら平凡でいいじゃない』って
そう思っちゃうのかもね。



あまり急がなくっていいと思うよ。
誰かの意見を聞いて
まだ迷ってしまううちは、
大きな決断をしなくても。
自分の決断に自分がちゃんと納得できるくらい
心の準備が整った時が
きっとベストなタイミングだよ。
思い立ったら何でもすぐ行動しないと、っていう
考え方は、、どうなんだろう?

そうなると、もし行動できなかったとき
余計に自信がなくなっちゃうでしょう?

いいのいいの、
ここは大器晩成型でいこう。
あ、まあこういうボクの話も
ほんの参考程度に聞き流してくれて
大丈夫だからね。


***

まだ青い色のもみじを見上げながら
キミの声を聞いていた。

クラリネットみたいに
包容力のある低音の声は
電話だと余計にやさしく、
頼もしく聞こえる。

どれくらい話していたんだろう。
あっという間だった気もするし
ながい時間経った気もした。

「そっかあ、そうだよね。」


もらった言葉を反芻して
自分の頭で考える。

私は、母に相談することで
「背中を押して欲しい」と勝手に期待しながら、
「母にもそう言われたから」と
責任転嫁する先を求めていたのかもしれない。

自分の行動の責任を
自分で持つ。



勇気がいるけど、それってすごくかっこいい。




星みたいな形の若い葉が
風に揺れている。
その先にある空が
やけに広く、高く見えたのは
きっと
キミとの電話のおかげだったと思う。


***


あれから1年と数ヶ月。

相変わらず私は
子供っぽくて
相変わらずキミは
落ち着いていて、芯が強くて、
でもたまに、
ヘンなところが抜けている。

似ているところも、違うところも
たくさんあるから面白いね。

この先の人生が
どんな道であったとしても
きっとキミとなら大丈夫。

今、胸を張って、そう思う。

誰に何を言われたとしても、
キミがいい。
キミと歩く道がいい。





今日は、ふたりの苗字を重ねた日。

キミと私の、結婚記念日。


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