記事一覧
2024年7月の連作、4つ
抜け殻
七月の桜に爪を立てているゆうべ中身の消えた抜け殻
ひとつめがいた次の日にふたつめの抜け殻がいた並んだ幹に
歴史書もましてや偽書も残さずに暑くなったら鳴くだけの蝉
街に住みたい
自然とは適度な距離を置きながら他人行儀な街に住みたい
現実はきっとどこかがみにくくて大人は狡いガキは汚い
王子様にならない蛙にキスをした こっそり作る夜食のスープ
幸薄系
人生が百年続く時代でも幸薄系へ貢い
自選短歌 2024年7月
後頭部に傘専用の手が生えることを進化と呼ぶ雨の星
太陽に愛されたなら死ぬだろう ねえカプチーノの渦巻きも宇宙?
わたしより君は幸せカレンダーの自分の誕生日に星マーク
流れない排水口を祟りだと怖がる君よ掃除しなさい
手を合わせ目を閉じたあと目を開けて早まったなとまた目を閉じる
ターザンは野生児なのに俺よりもスーツが似合う面接も受かる
言い訳にならないけれど果物に思えて指でさわるくるぶし
2024年6月の連作、5つ
味もつけたい
ゴミ袋大中小を使いわける平凡なゴミ生産マシン
どこかから自治区と認められているほどの立場で発言をする
生きたまま丸呑みにする食べかたは向いていないし味もつけたい
マドンナがあんな旦那に恋をしてインナーマッスルまでもしんなり
終わったら汚れていないほうの手で汚れたほうの手を洗います
捨てどき
そのときの気分に合わせて変えられないいつもと同じ空の青色
行き止まりで引き返そうと思った
自選短歌 2024年6月
本当の言葉は歌になりたがるリズムはいつもそれを待ってる
われわれがなにをするかは未定だが雨天決行だけは言いたい
建物と土地の名義は書き換わりつつがなきかな固定資産税
舞台には美女の首だけ残されてこれは手品じゃないかもしれない
もともとは人から奪ったものだけど奪われるのはかなり悔しい
2024年5月の連作、4つ
夢ではない
わたしにも寝顔はあると心配で部屋には鍵をかけてしまった
長靴に雨が入ったときわかる裸足になれぬわたしの弱さ
懐かしい甘さも実は罠だとははっと気づけばキャベツ人間
ピクルスはいてはいけない人たちに送った招待状のたくらみ
目が覚めて夢ではないと迷わずに気づいた朝は年をとります
いいんじゃないか
成功はしたが卒業文集の夢と違ってなんか気まずい
脱げたまま置いていかれた片方の靴の群れでは
自選短歌 2024年5月
難しい本を読むのだわからないことばかりだと忘れないため
下っ端は先に死ぬのよ正義にも悪にも染まりきらないでいて
救いとは目覚めることか眠ることか弥勒菩薩の静かな足音
借りたまま返していない本なのに特に心に残っていない
月ぐらい遠くにいれば気の向いたときにきれいと言うだけでいい
2024年4月の連作、4つ
自省
とびかかる猫の動きの先にいた獲物はちょうど陰で見えない
変わらない愛はあるのかてのひらにおさまるものはひと口サイズ
目玉焼きの目玉をいくら増やしても命の数はゼロでよかった
内臓が夜中も低くうめくのだ正論なんて魔除けのおふだ
進んだらもっと先まで見えてきて進捗率は一生二割
ぷちり
物置きはいくらか人をだめにして刈り込みバサミばかり四つも
不機嫌な羽音をたてているけれどあとからここに蜂が来
自選短歌 2024年4月
どこからか来てどこかへと行く鳥がベランダの屋根にたてる足音
どうしても引っ込み思案が直せずに背後霊すらわたしの前に
あいさつを元気にされて恥ずかしい悪い人ではないだけの僕
最適な太さのペンが最適でなくなってから使い切るまで
ごはんにもパンにも合うと気づかれてツナにとっては不幸な時代
テーブルにそれだけ置いた食パンが廃墟に見える夕陽の加減
2024年3月の連作、5つ
春のせい
立ち上がりしばらく待ってみたものの特にやる気はやってはこない
あげた人ももらった人もいなくなり贈り物だけ消えずに残る
会うために必要なのは約束で眠気は春のせいにしている
眠いとは思わないまま寝たあとでなにをあきらめたのか忘れた
あの頃にたいした意味はないとしてもときどき雨は降っていました
童心
なにもまだ事件は起きていないのに夢によくない予感を満たす
ありものでふさいだだけの穴だか
自選短歌 2024年3月
待てなくて熱すぎるまま食べるから誰も知らないたこ焼きの味
人肌のお湯にひたして待つだけでまさか木乃伊が生き返るとは
姿さえ隠れるほどの薔薇を持つ男が潔白のわけがない
我慢することをやめたら背から羽根額から角脇から触手
成しとげたあとの軽さで花びらは風のちからにすべてまかせる
家政婦は見たけどなにも言わないですべて許して天国へゆく
2024年2月の連作、4つ
したい
デジカメで撮った写真が多すぎて少し整理をしてあきらめて
からくりは知らないけれどあてにして晴れの予報で予定をたてる
すかしてたわけではなくてマスコミに踊らされても踊れない僕
見たくなる夢もあるって知らないと目を閉じているだけで寂しい
やわらかい毛布のようなベランダで奇跡のような昼寝がしたい
昨日の続き
始まりと終わりがちゃんとすることはなかなかなくて昨日の続き
とどまると邪魔になるか
自選短歌 2024年2月
すれ違う自転車が知る風景をわたしは少し前に見ている
くるくるとフォークダンスをつつがなく踊ったあともひとりで帰る
腹が出て膝が弱って音痴でも最新版で完全体だ
折るうちに端と端とがずれてゆくわたしが神でなくてよかった
素うどんにのせられているかまぼこに俺は好きだと言ってやりたい
この世では社長じゃなくて会長のほうが偉いといつ気づいたの
普通より不良がもてていることをわかったうえで僕らは普
2024年1月の連作、4つ
よこがお
雨ならば音がするけど雪だからふと見たときにもう降っている
幼さをわざと残したままにして生き抜いてきたクリームパンは
溶けきれず残る砂糖にお湯を足し足りない味の名のないなにか
忘れたりしませんからと言うように来なくてもいいメールが届く
よこがおをつるりとなぞるようにして少し若さを盗みたかった
神さま
晴れたときやりたいことが決まらないそれでも雨が続くのはいや
ちょうどいい感じにいつも
自選短歌 2024年1月
視界にはいつもとがった角がありサイは悲しみ以外知らない
縫うための針はないのに引き出しの奥にたまっていく補修布
空っぽの丼を置きふたをしてカツ丼になれと祈るほど暇
お湯で溶くタイプのクラムチャウダーで今日も満足できてしまった
のりしろをはみ出すほどにのりをつけ信じることが苦手なわたし
権力の犬にならない権力はどうせわたしを飼ってくれない
春といえど歌いながらは来ないのであれはおそらく酔
自選短歌 2023年12月
わたしにはスイッチはないちょっとずつやる気をためてやっとがんばる
そのときになんのつもりになったのか忘れたのだが確かに浮いた
細い木や洗濯物がなかったら風の強さに気づかなかった
復讐を誓う我らは無差別に人をさらって編みぐるみにする
宮殿の夜の深さをくどくどと語った近衛兵士の幽霊
平凡を受けいれるのだ特別は金がかかると知ったからには
のぞいたらいない誰かの足があるそんな気がしてのぞかぬ炬