2024年3月の連作、5つ

インスタグラムに投稿した、2024年3月の5つの連作です。

春のせい

立ち上がりしばらく待ってみたものの特にやる気はやってはこない
あげた人ももらった人もいなくなり贈り物だけ消えずに残る
会うために必要なのは約束で眠気は春のせいにしている
眠いとは思わないまま寝たあとでなにをあきらめたのか忘れた
あの頃にたいした意味はないとしてもときどき雨は降っていました

童心

なにもまだ事件は起きていないのに夢によくない予感を満たす
ありものでふさいだだけの穴だから聞きたくはないことも聞こえる
爪を切るつもりで指を切っちゃだめ爪は伸びても指は伸びない
出番より早く呼ばれて神さまはまず司会者を灰にしました
踏みつけた足の裏から染みこまれきっとこれから幼虫になる

違い

こころより言葉はせまい真夜中に鍵をまわした音は響いて
少しずつ汚れ続けたガラス戸の奥には誰がいてもゆうれい
狂うのはときどき止まるせいでした時計の僕と少女のあなた
やな奴はちゃんと嫌いでいたいから選挙に行って投票をする
心臓とリンゴの違いを気にせずにどちらも同じ赤で塗るだけ

街灯

誰ひとりいないあいだも街灯はなにも思わず照らし続ける
公園の二つ並んだブランコはひとりで乗った記憶だけある
真夜中に聞こえる声のいくらかは僕らがまわし続ける機械
卵からなにか生まれてくることを信じるようにまた月を見る

パンナコッタ

丸められ捨てられていたレシートにパンとチーズが並ぶ悲しさ
古き良き時代の人の髪型が整いすぎてこの世の終わり
ぼろぼろとこぼれるやわい焼き菓子をまるごと口に入れて沈黙
毛が生えてとまどうティラノサウルスの行く末ばかり君は気にした
なんてこった!ゆうべかかとに口づけたパンナコッタが偽名だなんて


※「街灯」は短歌連作サークル「置き場」第1号に掲載された連作です。


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