2024年7月の連作、4つ
抜け殻
七月の桜に爪を立てているゆうべ中身の消えた抜け殻
ひとつめがいた次の日にふたつめの抜け殻がいた並んだ幹に
歴史書もましてや偽書も残さずに暑くなったら鳴くだけの蝉
街に住みたい
自然とは適度な距離を置きながら他人行儀な街に住みたい
現実はきっとどこかがみにくくて大人は狡いガキは汚い
王子様にならない蛙にキスをした こっそり作る夜食のスープ
幸薄系
人生が百年続く時代でも幸薄系へ貢いでいたい
飛びこんだプールに水が無かったら不運ではなく不注意ですよ
缶のまま冷えたビールを飲みほして闇から闇へビールは移動
忘れられ白いアイスは溶けていたそれどころじゃないなにかがあった
魂が天に向かってのぼるとき初めて会った上階の人
冷蔵庫
さっきまで冷凍だったたこ焼きを熱々にして冷めるのを待つ
本当は死後の世界を信じない冷凍されて腐らない肉
目を閉じてみてもいくらか明るくてたまには冷蔵庫で眠りたい
まるごとのスイカが入る冷蔵庫を生首サイズと妻は呼びます
※「幸薄系」は短歌連作サークル「置き場」第4号に掲載された連作です。
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