【レビュー】『撃ち合いを制した粘り強さ』~第39節SC相模原VSファジアーノ岡山~

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スタメン

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マッチレポート

「3」と「10」を勝ち取る力強さ

 降格圏から抜け出すために勝点3が必要な相模原が、9戦負けなしと好調な岡山を迎えた一戦。[3-4-2-1]の布陣で挑む相模原は成岡輝留、木村誠二がスタメンに復帰。[4-4-2]の岡山は、パウリーニョが出場停止、ミッチェル・デュークがW杯最終予選のため離脱。攻守の核を欠くなかで、“エース”上門知樹が復帰し、最終ラインに宮崎智彦も帰ってきた。

 試合が動いたのは3分。小井上黎生人の小さくなったクリアを拾った相模原が人数をかけてゴール前に迫ると、PA内の混戦から、最後は松橋優安が押し込んだ。降格圏から脱出するために勝利が必須な相模原。欲しかった先制点を開始早々に奪った。

 強固な守備が持ち味の岡山にとって、いきなりの失点は不本意だ。しかし、守備組織を崩されたわけではない。もう一度、引き締めて逆襲に力を注ぐ。

 またしてもチャンスを作ったのは相模原。11分、左サイドから川上竜がゴール前に低いボールを入れる。抜け出した清原翔平が合わせたが、GK梅田透吾に弾かれる。そのこぼれ球を清原翔平が落ち着いたコントロールからシュートを打つが、これも大きく面のように身体を開いたGK梅田透吾のブロックに遭う。

 ピンチの後にはチャンスあり。13分、岡山がCKの流れから関戸健二がゴール前にクロス。ボールは相手に当たって軌道が変わり、PA手前に飛ぶ。これを石毛秀樹が胸でコントロールして、右足で浮かしながら相手をかわすと、そのまま右足一閃。ゴール左隅にボレーシュートを沈める、スーパーゴール。失点を帳消しにするとともに、早い時間帯に追いつくことに成功した。

 両チームの選手が互いに譲らない戦いが続く。身体をぶつけて、ボールを奪い合う。激しい主導権争い。セカンドボールに対する強い執着が、両チームから感じられた。序盤こそスコアが動く慌ただしい展開だったが、その後は両チームがそれぞれの良さを出す。

 相模原は、サイドの児玉澪王斗と夛田凌輔が岡山のブロックを広げて、空いたスペースに松橋優安や清原翔平が侵入していく形でゴールに迫る。37分、左サイドからの川上竜のクロスに清原翔平が頭で合わせるも、枠の上。39分には、右サイドのパスワークから、成岡輝瑠が内側から飛び出して放ったシュートは、岡山の粘り強いブロックに対応されてしまう。

 一方の岡山は、コンパクトな陣形から相手を囲い込んでボールを奪ってから、縦パスをスイッチに逆転弾を狙う。32分、PA手前での細かなパス交換から上門知樹が左足を振り抜くが、これはブロックに遭う。35分には、井上黎生人の縦パスを受けた石毛秀樹が上門知樹とのワンツーで右サイドから抜け出すと、ゴール前にクロス。これは中央で待つ山本大貴には合わなかった。

 後半開始。相模原は前半に4本のシュートを放った清原翔平に代えて前節同点弾を決めた安藤翼を投入。49分、左サイドでルーズボールを拾うと、松橋優安が仕掛けてクロス。対応しようとした岡山の連携ミスによってボールはゴール前へ。これを安藤翼が浮かして冷静に沈めた。背番号14が指揮官の期待に応える勝ち越しゴール。残留への強い想いとサポーターの後押しが、17試合連続複数失点なしの岡山のゴールを再びこじ開けた。

 2度リードされる状況となった岡山は、8分に少し距離のある位置から白井永地が無回転シュート、10分には石毛秀樹のFKを井上黎生人がヘディングシュート。立て続けに積極的なプレーで同点弾を狙うが、ネットを揺らせない。63分に、イ・ヨンジェと木村太哉の2枚替えで流れを引き寄せたい。その直後、石毛秀樹が蹴った右からのCKをイ・ヨンジェがドンピシャのヘディングシュートを放つが、GK三浦基瑛に防がれてしまう。

 岡山の猛攻を耐えた相模原は64分に松橋優安に代えてユーリを投入するも、守る時間帯が続く。

 ボールを保持して攻める時間を継続する岡山。パスを繋いで、相模原の[5-4-1]のブロックを左右に揺さぶる。66分、右サイドでボールを受けた木村太哉がドリブル開始。中央に切れ込んで、ユーリのスライディングを受けながらボールをPA手前に運んだ。このドリブルで混沌を作ると、こぼれ球を拾いパスを繋いで、石毛秀樹がシュート。ボールはイ ヨンジェの尻に当たり、ゴール方向に転がる。これにいち早く反応したイ・ヨンジェが流し込んで、再び同点に追いついた。

 まだまだ攻める手を弱めない。残留を確定させてはいるが、欲しいのは勝利。ただそれだけ。勝ち越しゴールとなる3点目を奪いに行く。78分、白井永地から裏へのパス。イ・ヨンジェが抜け出すも、シュートは打てない。こぼれ球を拾った河野 諒祐がマイナス方向へクロス。これを待っていた上門知樹が右足で突き刺した。逆転。リードされて、追いつく。またリードされても、追いつく。このような試合展開だったが、上門知樹のゴールで初めて勝ち越すことに成功した。

 あとがなくなった相模原、最後は古巣対戦となる後藤圭太を前線に投入して、GK三浦基瑛も上がるパワープレーを敢行。ロングボールをゴール前に放り込み、勝点1を掴むためにゴールを目指したが、途中出場の濱田水輝が統率する岡山の5バックからゴールを奪うことはできず。

 試合は2-3で終了。岡山が2度リードされる苦しい展開のなかでも、粘り強くゴールに向かって行き、試合をひっくり返して逆転勝利を収めた。これで、今シーズン初の3連勝と10試合負けなし。順位を10位に上げた。

 対する相模原は、降格圏を脱することができるリードが2度あったが、勝点3を得るチャンスを生かすことはできなかった。悲願の残留を目指すべく、苦しい状況は続く。

コラム

めずらしいミスが招いた2失点

 久しぶりの複数失点。第21節のホーム甲府戦以来、17試合連続複数失点なしが続いていた。1点以内に抑えていた守備には大きな自信を持っていたはず。簡単に失点しない。ゴール前での粘り強い対応で数多のピンチを防いできた。

 しかし、この試合ではキックオフからわずか3分に先制点を許してしまった。また、後半の頭にも失点。その2つの失点は岡山らしくないあっけないものだった。

 1失点目は右サイドから入れられた川上のハイボールを跳ね返そうとした井上のクリアが小さくなってしまった。的確な対応が売りの井上らしくないミス。おそらく原因は太陽の光だったのだろう。前半の岡山は正面に太陽がある眩しい状況でのプレーと、実況が紹介していた。井上のクリアを見直すと、予想していた落下地点よりも手前にボールが落ちているように見える。眩しさが井上のクリアミスを誘発したのだろう。その小さくなったクリアを拾われてボックス内に侵入され、なだれ込むように相模原の選手が押し寄せてきて、最後は松橋に押し込まれてしまった。

 ボックス内での反応は相模原が勝っていた。前節山形戦のアディショナルタイムのピンチを防いだような出足の良い対応は影を潜めた。身体の重さがあったのかもしれないが、必死さに違いがあったように思う。もちろん、岡山の選手も必死にプレーしていた。しかし、岡山の必死さを上回るものを相模原の選手が発揮したということなのだろう。降格圏を脱するためには勝利して得る勝点3が必要不可欠。そのためには、ゴールを決めないといけない。チームを残留に導くという強い想いが相模原の選手の足を動かした。

 2失点目は49分。後半開始から4分の出来事。またしても右サイドでルーズボールを奪い合う混戦から、松橋に仕掛けられてクロスを入れられる。そのボールに、白井と安部が連携ミス。安部がダイレクトでクリアしようとする前に、白井が触ってしまいコースが変わり、ボールはゴール前へ。それを安藤に流し込まれてしまった。この連携ミスもこれまでの堅守を築き上げてきた守備からは考えられないミス。残留を成し遂げるという相模原の雰囲気に飲み込まれてしまったのか。有馬監督も『守備の反応で少し緩いところがあった』と振り返っていり、『コミュニケーションの問題だ思うが後半の入りで、先に失点してしまったので、大きな課題としてしっかり修正していくことが課題』とコメント。なかなか見ない失点で、苦しいスコアにしてしまったのは反省として、次に生かしていってほしい。


リードされても屈しないひっくり返す力

 自分たちの良さが出せなかったり、滅多にないミスが起きてしまったりと流れが悪い状況で苦しい試合だったが、ゴールに向かっていく姿勢を貫き通し、3点を奪って逆転勝利を収めることができた。

 1点目の石毛のゴール。さすがとしか言いようがない。すごすぎる一撃。関戸が蹴ったクロスの軌道が変わり、背番号48の頭上に飛んできた。相手に当たり、コントロールするまで。わずかな時間しかなかった。その一瞬で、胸コントロールして、右足で相手の頭上を越すように浮かしながらかわして、落ちてくるボールを右足でボレーするというビジョンを描いた。そして、それを高い技術で実現させる。本当にすごい選手だ。思わず、叫んでしまった。

 2点目のヨンジェのゴール。1点目の個人技によるゴールとは違い、組織的にみんながゴールに向かってプレーした賜物だった。65分から岡山がパスを回して、相模原を揺さぶる。左右に散らして、隙を伺う。ボールは徳元と白井のパス交換で中央に注意を集めると、ボールは井上から内側に入った右SH木村にズバッと縦パスが入る。木村はサイドに預けて、ローテーション。河野、井上と繋いでボールは外にに張った木村へ。ここから、木村が斜めに切れ込み、相模原のブロックをこじ開ける。ボールはこぼれて混戦になるが、ここは岡山の反応の方が速かった。河野が寄せてボールを奪うと、石毛がシュート。これがジャンプして避けようとしたヨンジェのお尻に当たり、そのままボールはヨンジェの少し前へ。お尻トラップのような形になり、ヨンジェがシュートを流し込んだ。

 足を止めることなくゴールに向かってプレーした結果、河野が混戦を制した。また、ヨンジェのお尻トラップ?からシュートまでも速かった。怪我で苦しむシーズンとなったが、ゴール前での感覚は衰えを知らない。研ぎ澄まされたストライカーの本能がチームを救う同点弾を決めた。

 そして、上門の3点目。このゴールも前へ、前へと走り、プレーをしたことで生まれた。78分に、木村が縦に仕掛けて相手を押し下げ、ヨンジェが背後を取って白井からのパスを引き出す。そして、河野が相手を振り切ってこぼれ球を拾い、アシストとなるクロスを上門に送った。

 逆に仕留めた上門は、ゴール方向に突っ込んで行かずに、グッと止まって相手から離れてシュートを打てるエリアを確保していた。シュートまでの過程は前へというプレーと選択だったが、最後の仕上げは前に行っていない。止まっていた。ゴール前で、味方のプレーと相手の位置を観察して、点を取れるポイントに入っていく。

 ゴールを決めるためには冷静さが必要だ。周りが見えていないと、シュートを相手に当ててしまうし、相手のマークに遭いシュートすら打てないこともある。しかし、今シーズン13点目を決めた上門にはゴールを決めきる冷静さがある。強烈なシュートのパンチ力、スピード溢れる裏への抜け出し、献身的な守備と迅速な切り替え。それに冷静さを加えた背番号14はだれにも止められない。

 チームとして前へ、ゴールへ向かう姿勢が逆転に結びついたことは有馬監督も『最後まで粘り強く戦って90分で勝点3を取りにいくため、押し込みチャンスを多く作って取りきったことは、彼らのひとつの成長だと思っている』と手ごたえを掴んでいる。前半戦、嫌というほど得点力不足に悩まされた岡山。それを忘れるくらいここ数試合ではゴールが奪えている。夏に加入したデュークや石毛の存在も大きいが、ゴール数を増やすための取り組みを継続的にブレずにやってきた成果がシーズン終盤となって表れているということな。アウェイでも3点奪い、試合をひっくり返す力強さを手に入れた岡山の残り3試合に目が離せない。

 

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