【レビュー】『采配と伝統』~第33節ザスパクサツ群馬VSファジアーノ岡山~

試合結果

2022 J2 第33節
8/28 19:30K.O. @正田醤油スタジアム
群馬(0-1)岡山
30分 ミッチェル・デューク

スタメン

マッチレポート

両指揮官の采配合戦。個の力を引き出した木山監督に軍配

両監督の采配が激しくぶつかり合った一戦は、J通算448試合の木山監督に軍配が上がった。

前節に引き続きコロナウイルスの影響で主力を欠く岡山は[3-5-2]でスタート。2トップを組むデュークと齊藤へロングボールを蹴り込み、こぼれ球を拾って主導権を握っていく。また、[4-4-2]の群馬に対して後方で数的優位を作ってパスを回すと、WBの成瀬と宮崎幾が深い位置からクロスを供給してゴールに向かった。14分、宮崎幾のクロスをデュークが左足で合わせたシュートが枠の右スミに飛ぶも、2017年に岡山でプレーした櫛引の好守に遭う。

[3-4-3]に変化する群馬の立ち位置は整理されていた。小島、畑尾、城和のパス回しで岡山のプレスを外し、加藤と長倉がアンカーの脇で縦パスを受けて、高木と岡本が大外からクロスを放り込む。しかし、ラストパスの精度が上がらない。

岡山は出場停止明けの柳を中心にクロスを跳ね返していくと、プレスの圧力を高めた。デューク、齊藤、佐野で相手の3バックに対して数的同数で襲い掛かる。30分に佐野が櫛引のパスミスを誘発し、カットしたデュークが無人のゴールに蹴り込んで岡山が先制に成功した。

追い掛ける群馬は長倉が瞬間的に下がって起点を作り、岡山のプレスをいなしていく。40分には長倉がバイスを振り切ってシュートを放つも、堀田に弾かれた。

後半は群馬が攻め続けた。WBとシャドーだけでなく、ストッパーも駆け上がるサイド攻撃は厚みが増し、54分には186cmの鈴木を投入する。左サイドから高木が鋭いクロスを上げ続けるも、バイスと柳の壁を越えられない。

サイドの深い位置への侵入を許す場面が増えた岡山は60分に河井陽介を投入して[5-4-1]に変更。SHがWBをカバーする形でサイドの守備を補強した。

群馬は81分に2度目の2枚替えを行い、大槻監督の「ハッキリ[3-4-3]!」の指示が飛ぶ中でゴール前にクロスを入れ続けるも、70分に濱田を加えた岡山の鉄壁の守備を最後まで崩すことができなかった。

木山監督の采配がチームを勝利に導いた。[3-5-2]はスライドすることなく群馬のサイド攻撃への対応を可能にし、迫力のある2トップがクロスからゴールに迫った。そして[5-4-1]でクロスを弾き返す体制を整えた。攻守両面で個の力を引き出す采配はチームをJ1昇格に導けるか。残り10試合も一戦必勝で戦っていく。


コラム

6試合ぶりの無失点。伝統として受け継がれる粘り強さ

実に岡山らしい勝利だった。

30分に先制してから守勢に回る時間が続き、後半は防戦一方の状態だったと言えるだろう。群馬がボールを保持し、14本のクロスを記録した高木を筆頭に再三にわたりゴール前にボールを放り込まれた。しかし、ゴール前を固めた岡山の守備は最後まで粘り強さを発揮した。

出場停止明けの柳のクリア数は両チーム最多の10回を数え、バイスも7回と続く。そして濱田も約20分間のプレーで5回のクリアを記録している。ゴール前で弾き返し続ける3人の職人たちの存在感は大きく、堅牢な守備を築き上げる立役者となった。

クリアで貢献した3選手だけで掴んだ完封勝利ではない。WBで起用された選手はクロスを上げてくる選手に食らいつき、途中出場の選手も与えられた役割を全うした。

チームとしては先制してから失点を許さないようにリスク管理を踏まえた戦い方にシフトし、個人としては体を投げ出したり、相手と体をぶつけ合ったりして我慢強いプレーを徹底した。

監督、選手、スタッフが入れ替わり、2017年にはエンブレムも変わった。しかし、チームの勝利のために体を張る粘り強い守備はアイデンティティとして確実に受け継がれている。これまで歩んできた歴史と共に積み重ねてきたものを感じる勝利だった。


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