見出し画像

【レビュー】『我慢して逃げ切る力』~第37節ヴァンフォーレ甲府VSファジアーノ岡山~

全文無料公開。面白いと感じていただけたら投げ銭150円やスキ、RTやいいねをよろしくお願いします。

スタメン

画像1


甲府の出鼻をくじく開始早々の2ゴール

 試合は予想よりも早く動く。9分、相手陣内中央でのFK。キッカーはゴール前に蹴り込まずに、ショートパスを選択。この流れで右サイドから河野がクロスを送る。これにデュークが高い打点で合わせて、ゴールネットを揺らした。アシストを記録した河野のクロスはデュークの高さを生かすふんわりとした軌道。ボールに威力はなかったものの、前が空いた瞬間を逃さず、ノーステップで蹴り込んだ。あのタイミングだったからこそ、甲府の対応は遅れたのだろう。そして、ボールをゴールに持っていったデュークのパワーは言わずもがな。首や背筋の強さで、ふんわりとしたボールを逆サイドのネットに流し込んだ。中で待つ選手の特徴を意識したクロスを心がけている河野と、規格外の高さと強さを持つデューク。2人の良さが存分に出たゴールだった。

 先制ゴールから約2分後。またしても岡山が追加点を奪う。岡山は[4-4-2]のブロックをセットすると、甲府のビルドアップに対してプレス開始。上門が新井のミスを誘い、センターサークル内でマイボールにすると、そこからギアを上げて、長い距離をドリブルで持ち運ぶ。GK河田との1対1に持ち込み、相手をよく見てかわし、冷静にゴールに流し込んだ。

 試合開始からわずか11分で、3位甲府相手に2点のリードを奪うことに成功。中2日で迎えたアウェイ戦。チームはコンディションを整えるのが難しい状況だっただろう。ホームの甲府が中3日で迎えていただけに、序盤は様子を見つつ、徐々にパワーを出していくプランで試合を進めていくのかもしれないと思っていた。しかし、中2日を感じさせない試合の入り。勝ち続けて昇格を狙う甲府の出鼻をくじくような序盤の連続ゴールだった。ただその後、守備で主導権を握る展開を作れなかった。コンディションを整えることは難しかったが、もしかしたら消耗する前に勝負を決めてしまおうというプランがあったのかもしれない。ゴールを奪いに行くパワーを出すことができた時間帯に2点を奪えたことが、勝利と勝点3を持ち帰ることができた最大の要因だったに違いない。


狙いを定まらせない甲府のビルドアップ

 甲府のビルドアップは、岡山に奪い所を定まらせないものだった。スタートこそ[3-4-2-1]と表記されるが、ボール保持時には[3-2-5]あるいは、[2-3-5]に変化する。

 2つの変化に共通するのは、WBとシャドー、1トップで5レーンを埋めること。WBが大外、シャドーが内側、1トップがセンターを担当。岡山の4バックに対して、人と人の間に立ち、縦パスを引き出したり、裏に抜けたりとマークをかく乱する。

 また、大外に張るWB。左サイドの須貝は外張り出して、河野の背後を狙ったり、タッチライン際でボールを引き出したりと幅を取っていた。しかし、右の荒木は大外に張り出して背後を狙うよりも、少し低い位置で受けて、中央に入っていくなど左とは設計が違った印象を受けた。左利きであることも起因するのかもしれないが、オンザボールでのプレーに自信を持っていることと、SBの背後の取り方に違いがあったように思う。

 手前で受けてSBを引き出すと、パス&ムーブでその背後を自ら取りに行ったり、内側からシャドーに飛び込ませたりするような形。サイドの深い位置を取るために、相手を引き出し、スペースを空けておく。荒木自身も内側に入っていくことから、流動性は重視していたのだろう。

 冒頭で述べた[3-2-5]と[2-3-5]の可変後の2つのシステムの違い。それは、3バックの中央を務める新井のポジショニング。「3」のときはそのまま3バックの中央に、「2」のときは1つポジションを上げてアンカーのような振舞を見せる。アンカーの新井が岡山のプレスを弱めた要因の1つにもなった。

 アンカーの新井が上門とデュークの間に立ち、プレスをけん制しながら縦パスを引き出す。そして、ボランチの野津田と野澤が2トップの脇から縦パスのコースを作る。すると、岡山は甲府のボランチをボランチで潰しに行くため、持ち場から前に出て行かなければならない。そこで、岡山のボランチが空けたCBの前のスペースをシャドーが入ってきて使う。このように、立ち位置で相手をけん制しつつ、コンパクトさが強みの岡山が形成する[4-4-2]ブロックを引き伸ばして、優位な状態を作るビルドアップは岡山の強みを出させない設計が練られていた。


[5-4-1]で守備のラインを下げて応戦

 2点のリードを得ながらも、甲府の巧みなビルドアップにより、後手に回るシーンが増えてきた岡山。前から規制をかけて、奪いに行く守備ではなく、ある程度構える守備に変更。前半途中から、上門が左に下がり、徳元がSBに、下口が中央にずれる[5-4-1]に。守備のスイッチを入れるエリアを下げて、コンパクトな陣形を作ることに注力。それに加えて、最終ラインを5枚にすることで1人1人の横のスライドを少なくなった。よって、ボールホルダーにプレスをかけられるようになり、すこしずつではあったボールを奪う回数も増加。ただ、重心を後ろに乗せているため、奪ってから相手ゴールに迫っていくのには時間と労力が必要。[4-4-2]のときのように、奪ってから早く攻めるような切り替えの速さは影を潜めた。


自分たちで招いた失点

 甲府の猛攻をGK梅田を中心に身体を張って防ぐ耐える時間が続く。54分、GK梅田のロングキックをデュークが競って起点を作ると、そのこぼれ球を回収して時間を作る。パスを回して、徳元が左からクロスを入れるものの、3人が待つゴール前には届かず。低いボールを甲府が手前でクリアすると、宮崎が拾ってカウンター開始。岡山が陣形を整える前に、途中出場の長谷川がぽっかりと空いた中央からドリブルでゴールに迫る。すると、一気にスプリントした宮崎が濱田を置き去りにし、長谷川からのスルーパスに抜け出す。宮崎がGKとの1対1を浮かして冷静に決めて、甲府が1点を返した。

 [5-4-1]の耐える時間から一転、勝負を決める3点目を決めるべく、前に人数をかけて重心を前に向けた岡山。徳元のラフなクロスボールをきっかけに、大カウンターを受けることになってしまった。ただ、選手たちには点を取りに行くという共通認識はあったのだろう。その証拠に、DFラインは押し上げていた。だからこそ、起点になった宮崎に対して潰しに行った濱田が止めることができなくて残念だった。結果的に、失点した場面では濱田が空けてしまったスペースを宮崎に使われている。自分たちのプレー選択で十分に防げたため、悔しい失点となった。

 

最後は全員守備で逃げ切り成功

 58分に、後半から左にポジションを移した荒木を抑えるべく守備力に定評のある廣木を投入し、右サイドの守備を再び引き締める。さらに、73分には阿部を投入。下口をボランチに押し上げ、阿部を3バックに入れることで、高さをプラス。クロスを中心とした甲府の攻撃を跳ね返し、身体を張るなど集中した守備を続ける。

 90分には、長谷川から途中出場の関口に斜めのスルーパスをゴール前に通されるが、ここはGK梅田が飛び出してボールを抑える。

 最後まで粘り強い守備で同点弾を許さなかった岡山が開始早々に奪った2点リードを守りきり、逃げ切りに成功。昇格に向けて絶対に勝利が欲しい甲府相手に、アウェイで貴重な勝点3を獲得。この勝利で、無敗記録を8に伸ばした岡山は2021シーズンのJ2残留を決めた。

ここから先は

0字

¥ 150

読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポート資金は遠征費や制作費、勉強費に充てさせていただきます!