【レビュー】『繋げた残留への希望』~第39節レノファ山口VSギラヴァンツ北九州~

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スタメン

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繋ぎたい北九州と奪いたい山口

 自力で残留を決める勝利が欲しい山口がホームに、残留を掴み取るために勝点を積み重ねるしかない北九州を迎えた今シーズン2度目の関門海峡ダービー。

 両チームのゴール裏が満員になり、解禁された大旗とサポーターの手拍子が選手の背中を押す文字通りダービーらしい盛り上がりを見せた一戦となった。

 サポーターの後押しを受けた両チームが、立ち上がりから自分たちのスタイルを貫き、チームの色を出していく。

 キックオフからボールを握ったのはアウェイの北九州。SBが外、SHが内側の立ち位置を取り、CBとボランチでショートパスを繋ぐお馴染みのビルドアップで前進を図る。西村と井澤のボランチが最終ラインに落ちて、後ろを3枚にするいつものやり方ではなく、どちからのSB(主に右SB野口)が少し下がり目の外にパスコースを作って、ダブルボランチが縦や斜めのパスコースをCBに確保するする立ち位置を取った。なぜ、後ろを3枚にするひし形を作らなかったのか。おそらく山口の1トップ+2シャドーにそのままハメられることを避けたのだろう。山口の前線の3人は最初の守備者として、正面を塞ぐだけでなく、チャンスがあれば奪いきる守備の強度と賢さを兼ね備えている。北九州としては、最終ラインでのパスミスから失点するリスクを減らしたいという意図を持って試合に臨んだはずだ。

 後ろの立ち位置には多少なりとも変化はあったが、選手の足元にパスをつけて、剥がしていく基本方針は変わらず。後ろからうまくライン間(DFやMFの間、MFやFWの間など)にポジションを取った新垣、髙橋、前川の2列目の選手にボールが入るとチャンスを作ることができていた。16分には生駒が相手からボールを奪うと、ライン間の新垣へ縦パス。さらに、スッと下りてきた佐藤亮にパスが繋がり、右サイドの髙橋にボールが渡る。内側に視野を取りながら中に運んだ髙橋から裏に抜ける前川へスルーパスが出て、GKとの1対1を作った。決めきることはできなかったが、相手の間に立ち、ショートパスが連続して繋がったことで、相手を引きつけて、裏のスペースを取る。理想的なシーンだったと思う。それだけに、決め切りたかったシーンでもあった。

 対する山口は、前からしっかりプレスをかけて、奪いに行く姿勢を示す。ボールを持つCBにはボールサイドのシャドーがサイドに追い込み、縦パスのボランチは草野がマーク。奪うサイドを明確にして、そのサイドをWBとボランチで圧縮。中距離の縦パスには、CBが前に出て行き潰す。ボールサイドに人数を集めて、北九州の選手がプレーするエリアを狭める。そして、ミスを誘いながら、奪いきるチャンスを作ってマイボールにする。積極的な守備で主導権を渡さない。

 1人が必ずボールホルダーにプレッシャーをかけて、近くでサポートする北九州の選手にも後ろから寄せてパスを出させない。できるだけ逃がさない、難しい選択をさせて奪う。連動した守備組織は高い位置から奪うシーンを作っていた。また、攻→守の切り替えも速く、集中力を見せた。18分、高木からのクロスが合わず、北九州に拾われて繋がれそうになった場面では、野口に橋本が出ていき、佐藤亮には佐藤謙介、前川には田中渉がしっかりマークに付いてミスを誘って楠本で回収して高い位置で奪うことに成功。そこから二次攻撃を仕掛けようと、再びサイドアタックを目指した。

 北九州のほとんどのパスが足元へのパスだったため、時間が経つごとに山口が受け手を捕まえて潰すように。北九州が繋ぎに手こずり、自陣から抜け出せない状況が増えた。山口のプレスがハマったのだ。

 北九州が山口にもかかわらずプレスを外すためには、やはり裏のスペースを使うことが必要になってくる。裏へのランニングとパス、これで前に前に出てくる山口のプレスを弱体化できたかもしれない。DFは背後に走られると守るべきゴール方向、つまり自分の背中をケアしようと前に出ていきにくくなる。そうなれば、山口のDFラインは押し下がり、コンパクトな陣形を作らせないことができた。山口のプレス強度の高さはコンパクトな陣形に裏付けされる。コンパクトな陣形を崩すべく、もう少し裏へのランニングとパスを増やすことも必要だっただろう。この試合でチャンスを作れたシーンは裏を取れたとき。背後への抜け出しを得意とする彼らの推進力ももう少し見たかった。


山口のワイドアタックとローテーション

 山口の攻撃で再現性の高かったものが、大外のWBを起点に、そこからシャドーやボランチが絡む流動的な攻撃。楠本から右の高木へ一発で通す正確なサイドチェンジは局面を一気に打開できる効果的なパスだった。サイドチェンジは、空いている逆サイドにパスを出すため、受け手が孤立することが多い。しかし、山口はWBがパスを受けて、内側からすぐにシャドーが斜めに突き抜けるランニングで相手の押し下げながら懐への侵入を試み、ボランチが横で逃げ道を作る。WBとシャドーの関係性で崩せないときは、ボランチが抜けてシャドーが落ちたり、CB(主に右のヘニキ)が上がってきてパスコースを作るなど、目まぐるしく流動的に立ち位置を変えながらサイド攻略を目指した。立ち位置は変わるが、内と外、逃げ道の3つのコースを確実に作るという約束事は見うけられた。このようにしかりと仕込まれたワイドアタック&ローテーションが北九州のサイドでかなり優位に立っていたように思う。 


北九州執念の粘りとサイドの補強材

 ただ、山口がゴールネットを揺らすことはできなかった。北九州の選手が最後まで粘り強く対応し続けたからだ。ここ数試合の北九州は簡単に失点する試合が少なくなかった。逆転しながらも追いつかれたり、先制点を奪いながらも逆転されたりと”あっけない”失点で勝点を取りこぼしてきた。

 しかし、この試合ではダービーということも起因したのか、選手たちから絶対に失点しないという強い執念を感じた。その執念がプレーに表れた。田中悠也が山口の5本の枠内シュートを防ぎ、生駒と河野のCBコンビが高い集中力を発揮して、最後の最後で身体を投げ出した。怪我から復帰した井澤がDF-MF間のスペースを埋めながら強度の高い守備でピンチの芽を摘む。セカンドボールへの反応も足を止めずに拾おうと球際を戦った。全員が各々のポジションでできる守備を高い集中力で継続する。試合終了のホイッスルが鳴るまで諦めない、集中を切らさない。ゴール裏に掲げられた”北九州の為に最後の1秒まで共に戦おう”という横断幕の文字通り、この試合ではいつも以上に諦めない姿勢がプレーから感じられた。

 耐える時間が続くと、当然体力は消耗する。自分たちが攻撃をしている以上に、消耗する。スコアレスの状況は続いたが、度重なる山口のサイドチェンジにスライドが追い付かなくなり、制限がかかりにくくなってしまった。サイドからクロスを入れられる場面も増えて、失点のリスクが増加。肝が縮む時間が続く。サイドの守備のテコ入れが必要だった。

 そこで、小林監督はプレスの連続で疲れが見えた2トップを交代。61分に、富山と新井の2枚替え。この交代で富山と髙橋を最前線の縦関係に、新井を右SHに起用した。今季初出場となった背番号2が持ち前の運動量で右サイドの守備を蘇らせる。楠本(左CB)がボールを持ったときに、シャドーへの縦パスを塞ぎながら、橋本(左WB)へのパスを誘導するように追い込む。後ろの野口と連携して、簡単にクロスを上げさせない守備を築いていく。新井のサイドに出て、戻る。出て、戻る。この献身的な動きで、自由にやらせない主体的な守備を維持することができた。終盤にピッチを去ったが、彼の献身的なプレーが北九州に流れを呼び込んだことは間違いない。我慢して耐えてきた北九州の反撃が始まる。

残留へ望みを繋げたエースの一撃

 75分、北九州が一瞬の隙を突く。ゴールキックを拾った山口のビルドアップ。パスを受けた楠本に新井が全力でプレスをかける。内側を切りながら一気にスピードを上げて寄せたことによってパスミスを誘発すると、西村がカット。そこから前がかりになっていた山口の中盤と、繋ぐために下がり深さを取ったDFラインとの間にいた髙橋にパスが渡る。背番号10は反転。相手を引きつけて、左サイドに託した。ここには65分に投入された”盟友”椿。コントロールすると、細かいステップを踏みながら、右足のアウトでさらして中央にカットインする素振りで相手の出方を伺う。椿が作った時間を使って、髙橋が全速力。椿の背中をフルスプリントで追い越す。対峙するヘニキは迷う。中か外か。中からは渡部のカバー、佐藤謙介も戻ってくる。2人がクロスした次の瞬間、背番号39が選択したのはパス。相手を十分に引きつけて、エースに託した。椿だけでなく、ここまで耐えてきた選手、その選手を信じ続けた監督やコーチ、北九州が目指すゴールの裏で応援し続けるサポーター。北九州の残留を信じるすべての想いが、背番号10の左足に乗る。左足一閃。ニアサイドを突き刺すゴール。先制。欲しかった欲しかったゴール。勝利を手繰り寄せ、残留へ望みを繋げる値千金の決勝点。ダービーマッチで迎えた大一番でエースから大黒柱へと進化を遂げた髙橋が仕事を果たした。

 ゴール裏は歓喜に沸き、髙橋はサポーターのもとへ走った。そこにピッチからベンチから選手が集まる。喜びを爆発させる。髙橋は胸のエンブレムを叩き、親指で背中の10をアピール。『北九州のために戦い続ける、俺たちはまだまだ諦めない、残りも一緒に戦ってくれ』というメッセージを感じるとともに、清水からの武者修行の身ということを忘れるくらいギラ魂を感じた。背水の陣で挑んだダービーマッチでの先制点が持つ意味は大きい。この1点を勝利に繋げるために、北九州の戦士たちは戦った。


教訓を生かしたハッキリとした締め方

 点を取ったあとの北九州はフワフワとした空気が満ちて、儚くて、脆かった。しかし、この試合では不要に前からプレスをかけずに、ハッキリとした戦い方を遂行。入ってきたボールや選手に対してタイトにアプローチをかける。身体をぶつけて、身体を投げ出す。84分には、2枚替え。永田と岡村を投入。ベテランで発信力のある背番号6を最終ラインに加えて、5バックに。ベンチからも守り切るという明確なメッセージを送った。

ターゲットになれる梅木を投入し、ヘニキを上げる山口の徹底したクロス攻撃に振り回されながらも付いていく。要所、要所を身体を張って抑える。88分のCKでは、相手にシュートを打たれたものの、ライン際で生駒が掻き出し、セカンドボールの反応を速くしてクリアした。本当に執念を感じた。苦汁を飲んだミクスタでのアディショナルタイムからの教訓がプレーに表れたのだ。

 そのまま北九州が耐えて、試合は0-1で終了。試合終了を告げるホイッスルが鳴った瞬間、背番号10は泣き崩れ、地面を叩いた。長かった。長い道のりだった。10試合ぶりの勝利。まだ残留を手にしたわけではないが、この勝点3が残留争いを打開するきっかけになる。非常に価値の大きいものになった。本当に苦しい状況が続いていたと思う。大きな重圧の中、諦めずに戦っていた。結果がついてこなくても前だけを見て、魂を削りながら戦った。

 髙橋のゴールを守り切った北九州が残留に望みを繋げる勝点3を獲得。順位を19位に上げて、残留圏の18位との勝点差を2に縮めた。本当に良かった。


試合を盛り上げたダービーの雰囲気

 関門海峡ダービーには両チームのサポーターが多く駆けつけた。両チームのゴール裏席は完売。37分には両チームの選手が一触即発するようなシーンもあり、ピッチ内外でダービーらしさが満載だった。

 今節から解禁された大旗がなびく、手拍子がこだます。ゴール裏の熱がダービーの雰囲気を盛り上げ、選手たちを鼓舞し続けた。

 みんなでゴールに沸き、勝利を喜ぶ。まだまだ声を出しての応援はできないが、1つの喜びを共有する。これこそがサッカーの醍醐味だ。

 ダービーでの勝利、希望を繋ぐ勝点3が作る一体感は強烈で、これを次に繋げていかないといけない。同日に愛媛が新潟に敗れ、翌日に相模原が岡山に敗れ、山雅が甲府に敗れた。残留を争うライバルが軒並み勝点を落とした。また、宮崎も勝利したことで、来季の昇格はないが首位に立った(熊本が1試合未消化、勝点差は2)。宮崎が昇格圏内でシーズンを終えると、J2から降格するチームは3つになる。神風が吹いているのかもしれない。このチャンスを絶対に逃してはならない。下との勝点差は1、上との勝点差は2。残り3試合。手に汗握る試合は続く。まだままだ苦しい状況には変わりないが、ダービーという最高の雰囲気の中で勝ち取った勝利を自信に、J2残留という目標を達成してほしい。

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