【レビュー】『逆境を跳ね返す力』~第35節水戸ホーリーホックVSファジアーノ岡山~

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スタメン

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マッチレポート

変化と継続の行方は劇的な幕切れ

 前節から6人変更と大胆なメンバー変更を行った水戸。対する岡山は、3-0勝利を収めた前節と同じメンバーでケーズデンキスタジアム水戸に乗り込んだ。

 最初にチャンスを作ったのは岡山。デュークが左サイド深い位置で起点になると、ショートパスを繋いでゴール前に侵入。最後は喜山がペナルティエリア(以下PA)右でシュートを放つが、DFのブロックに遭う。

 その後、水戸がボールを保持し、中央への縦パスやサイドからのクロスでゴールに迫るが、なかなかシュートを打つまでには至らない。3分に、GK梅田のクリアを拾っった藤尾が遠い位置からシュートを打つも、枠には飛ばず。

 ボールを持たれる時間が長かった岡山だったが、守備では自慢の[4-4-2]ブロックで慌てることなく対応。PA内に差し込まれた縦パスにもCBがタイトにマーク。水戸の若い攻撃陣に仕事をさせない。攻撃では、デュークを起点にしながら、迅速なサポートを徹底して連動性を発揮するも、決定的なチャンスは作れず。

 互いに譲らないまま前半は終了。

両チームメンバー変更なく、始まった後半。主導権を握ったのは水戸。チャンスを立て続けに作っていく。47分、PA手前で受けた平塚が左足でミドルシュート。選手の間を縫う鋭いシュートだったが、GK梅田が落ち着いてキャッチ。52分には、伊藤からの浮き球に反応した藤尾がコントロールからシュート。背後を取られつつも最後まで粘り強く対応したDF安部とタイミングよく間合いを詰めたGK梅田に防がれた。

 水戸の攻撃に耐えて、逆襲の機会を探っていた岡山だったが、デュークが49分、55分にイエローカードをもらってしまい退場。スコア内容ともに均衡していた試合を10人で戦うことになってしまう。数的不利を強いられた有馬監督は、徳元に代えて川本を投入。上門を左に回して、川本を最前線に置く[4-4-1]に。そんな岡山にさらなる試練が与えられる。

 59分、右サイドからクロスを入れられ、森にシュートを打たれるがクロスバーの上。ピンチを脱したと思いきや、対応にあたっていた喜山がこのプレーでふくらはぎを負傷。腕章を巻き、チームの心臓として、攻守両面で大きな役割を担う背番号6を欠くことになった。喜山と交代して入ったのは木村。その木村が左サイドハーフ、上門が右に、石毛がボランチにポジションを移した。退場者と負傷者を出してしまい、後手に回ってしまった感は否めない。何とか全員でこの厳しい局面を乗り切る。チーム力を試される時が来た。

 数的優位のアドバンテージを得た水戸は、前回対戦時にともにゴールを決めた中山と松崎を投入し、攻勢を強めていく。67分、右サイドでボールを奪うと、PA右に藤尾にボールを繋ぐ。藤尾は切り返して、逆サイドでフリーになる伊藤へパス。これを伊藤が合わせるが、GK梅田がステップを踏んでシュートストップ。73分には、途中出場の奥田が左サイドでキープして、マイナス方向へグラウンダーのクロス、1人スルーして、平塚が鋭いシュートを放つも、GK梅田が横っ飛びでスーパーセーブ。水戸は立て続けに決定機を作っていくが、ことごとく立ちはだかるGK梅田を攻略できない。

 21歳の若き守護神の気迫の連続セーブで望みを繋げる岡山。耐える時間が続くが、有馬監督の『しっかり繋げろ』という指示通り、ボールを奪ったパウリーニョから縦パスを引き出した川本が、裏のスペースを駆け上がる木村にスルーパス。木村がドリブルで仕掛けてCKを獲得。劣勢だが、まだまだ勝点3はあきらめていない。

 押し返そうとする岡山の逆襲の芽をきちんと潰す水戸は、さらに山根と中里を投入して、勝負を分ける1点だけを狙いに行く。87分の山根の無回転気味のシュートは、GK梅田のパンチングに遭う。ゴールこそ奪えていないものの、枠を捉えるシュートが増えて、確実にゴールに迫っていく。

 全員が相手陣内に入り、ゴール前に人数をかける水戸がついに均衡を破る。91分、クリアを拾った中山が身体を使ってキープして、松崎に預ける。松崎がPA右で巧みなステップワークから、右足で流し込んだ。喉から手が出るほど欲しかった先制ゴールを決めた松崎は、前回対戦時にも試合終了間際にゴール決めている。いわゆる岡山キラー。秋葉監督の采配が当たった。

 耐えて耐えて耐えしのいできた岡山だったが、試合終了間際に失点を許し、万事休す。かと思ったが、勝点を得るために1点が必要になったことで何かが吹っ切れた。最後まで諦めないファジアーノ魂を貫き通した選手たちの想いが、94分に同点ゴールを生み出す。左サイドに人数を集めて、相手のクリアミスを拾うと、PA手前左で横パスを受けた石毛が右足一閃。チームを逆境から救う劇的弾を決めた。

 試合は1-1で終了。先制ゴールを奪い、数的優位で戦っていただけに勝利したかった水戸。これで秋葉監督体制下最長となる6戦負けなしとなった。一方の岡山は、退場者と負傷者を出す厳しい試合転嫁になってしまったが、石毛の劇的ゴールで追いつき、アウェイで大きな勝点1を獲得。こちらも、6戦負けなしで次節はホームで新潟を迎える。


コラム

石毛秀樹、タフなテクニシャン

 思いきりよく振り抜いた右足。94分に石毛秀樹が同点ゴールを決めた。90分間攻守においてタフに戦っていた中で、力強いシュートを打つのは難しい。しかし、ネットを揺らしたシュートは低く抑えられて、正確かつ鋭くコントロールされていた。

 背番号48がスタメンに名を連ねるようになって、6試合で2勝4分。負けなし。彼独特の創造性と、それを実現する高い技術力で、ゴールやアシストでチームに貢献してきた。この試合も技術の高さがゴールという結果をもたらした。

 劇的同点弾を生み出したのは技術の高さではあるが、ただの技術の高さではない。デュークの退場によって数的不利になったことで、右サイドハーフでプレーしていた石毛はいつも以上に守備での負担が大きくなった。カバーしないといけないプレーエリアは増え、攻勢を強めた水戸の上がってくるSBも対応しなければいけない。11人のときよりも10人の方が1人が作ってしまうほころびは大きくなる。相手にやらせない粘り強い守備を続けた。そして、喜山が負傷してピッチを去った。ポジションをボランチに移した石毛は相手に使われたくないDFと自分の間をケアしながら、パウリーニョとともに守備に奔走。失点に直結するシビアなエリアを集中して守り続けた。

 運動量も増え、守備の時間も長くなり、かなり疲労していたはず。そんななかで、技術の高さが光るシュートを決めてみせた。石毛の技術には、タフさがある。疲れていてもゴールに結びつけることができる技術の高さを発揮できる。タフに戦えるテクニシャン。試合を重ねるごとに、背番号48の頼もしさがどんどん増していく。


梅田透吾、勝点をもたらすGKへ

 チームを救ったのは石毛秀樹だけでない。最後尾でゴールマウスを守り続けた梅田透吾だ。水戸のシュートは13本。そのうち枠に飛んだのは8本。91分に松崎快にゴールを許したものの、残りの7本を防いだ。

 決して簡単なシュートばかりではなかった。52分の藤尾翔太のシュートは、安部崇士が最後まで諦めずに身体をぶつけていたとは言え、飛び出すタイミングがお見事。距離を詰めて、シュートを打つ選手に近づくことでシュートコースを消すプレー。冷静かつ的確な判断だった。67分の伊藤涼太郎のシュートは左から右にクロスを通されて、振り回された形にはなったが、落ち着いて足を運んでシュートを止めた。73分の平塚悠知のシュートは、横っ飛びでスーパーセーブ。しっかりと、ボールの軌道を見極めて、弾いている。

 21歳と若い選手ではあるが、若さを感じさせないほどシュートへの対応は冷静そのもの。そんな冷静さは、ピンチを防いだあとに笑顔を見せるほどだ。PA内シュートセーブ率は75%でリーグ3位。PA内シュートキャッチ率は38.9%でリーグ4位。数字にもチームへの貢献が表れている。梅田が起用されてから、後ろから安定して組み立てができるようになったという攻撃でのメリットもあるが、ゴールキーパーはゴールを守ってこそのポジション。最後尾でどっしりと構えてゴールを守る梅田は、間違いなくチームに勝点をもたらす選手へと成長している。彼のキャリアはまだまだ長い。2021シーズンの残りの試合も含めて、今後どれくらいすごい選手になっていくのか。期待しかない。



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