【レビュー】『充実の3-0』~第34節ファジアーノ岡山VS松本山雅FC~

全文無料公開。面白いと感じていただけたら投げ銭150円やスキ、RTやいいねをよろしくお願いします。

スタメン

画像7


先行逃げ切り型の極みへ

 岡山は終始ゲームをコントロールしながら試合を進めることができた。試合の入りで相手にやりたいことをやらせない。2トップ+SHの4枚で松本のビルドアップに停滞感と閉鎖感を与え、ホームのピッチでやらせない姿勢を示した。

 ボールを持つ場面が多かったのは松本。しかし、岡山は慌てない。ボールは持たれていたのではなく、持たせていたのではないかと思うほどに、自慢の[4-4-2]のブロックは安定していた。

 ボールを奪うスイッチとなったのは、中央への縦パス。2トップがボールホルダーの正面に立ちながら、斜めに下りてくる選手へのパスコールを遮断。SHが大外のWBをけん制。そして、ボランチの1人、特にパウリーニョが縦パスに対して前に出ていくようなアプローチをかける。背番号26の持ち味であるガツンとした強度の高い守備でボールを奪いきる姿は、ボールハンターの名をほしいままにした。

 中央への縦パスを受けに来る松本のボランチ、ビルドアップのキーマンである佐藤をターゲットにした守備のメカニズムは相手を圧倒。序盤から意図した形でボールを奪う、または相手のビルドアップをけん制する。松本がビルドアップの重心を後ろに下げさせるしかなかったような状況を作った。全員が組織的で、献身的な4-4-2の守備。試合を戦うたびに成熟度を増す守備が、先行逃げ切り型としての岡山に磨きをかける。4チームが降格する激動の2021シーズンは残り8試合。主導権を握れるほどの安定感を持つ守備は自分たちの拠り所になる。この自慢の守備を発揮しながら、順位をどこまで上げることができるのか。ホームで負けた水戸や甲府、長崎との対戦も控えているため、リベンジに期待したい。


今季最多タイの3得点

 前節に続いて、またしても岡山に複数得点が生まれた。得点力不足に苦しんだシーズンの終盤に、今までのうっ憤を晴らすようにゴールネットを揺らすことができている。石毛と上門が2試合連続ゴール。決めるべき選手が決めて、勝利に導く。チームとして最高の形だ。そんな2連勝をもたらしてくれた2人の3ゴールを振り返る。


パスと抜け出しのタイミング(1点目)

 先制点は13分。直前にネットを揺らしたがオフサイドの判定で、ゲームを再開するGK村山のロングキック。これを安部が跳ね返して、デュークが競り、こぼれ球は石毛の方へ。これを石毛は1タッチでスペースに流すスルーパス。DFの間から裏に抜け出した上門が冷静にGKをかわして、流し込んだ。

 このゴールではアシストとなった石毛のパスに注目したい。デュークの競り合いからこぼれたボールがバウンドする前にラストパスを送っている。勝負を決めたパスのタイミング、それは松本のDFがボールウォッチャーになった瞬間だった。ボールがバウンドするか否か、石毛がコントロールするか否か。これらを見極めようと視線を上門からボールに変えた瞬間に、石毛がパスを出し、上門がそれに抜け出した。トップスピードでバウンドを抑えながら、シュートを打てる少し前に置く上門のコントロールも絶品。タイミングで決めた素晴らしいゴールだった。


石毛の技術と徳元の落ち着き(2点目)

 2点目は62分。松本のビルドアップの局面。ボールを持つ平川を上門がけん制。少し外を石毛が塞ぐ。そして、喜山とパウリーニョで佐藤への縦パスに挟み込むようにして食らいつき、ボール奪取。あっけにとられた松本をひっくり返すように、石毛が柔らかいパスで星の背中を取ったデュークへ。胸でコントロールして、振り抜いたデュークの左足はGK村山に防がれるものの、こぼれ球は徳元が回収。大きなキックフェイントで相手を引きつけるだけ引きつけて、冷静に中央へパス。走り込んできた石毛が左足で合わせた。

 得点のきっかけとなったデュークへのパス。ネットを揺らした左足のシュート。またしても、石毛の技術高さが存分に表れたシーンとなった。ただ、徳元のお膳立ても忘れてはいけない。左SHとして先発した背番号41は、前半に2本のミドルシュートを放ち、ゴールへの積極的な姿勢を示していた。そんな彼がゴール前での”おいしい場面”で左足を振り切らずに、横パスを選択した。相手の選手が2,3人寄せてきたことを頭に入れて、ゴールの可能性が高い方を選ぶ。ゴールを決めたい気持ちを強く感じていた徳元がチームの勝利のために、アシストという大仕事を果たしてくれた。

 タッチラインを背にしてプレーするSBから、360°からプレッシャーを受けるSHへポジションを変えた2021シーズン。新たなポジションでトライし、新境地を切り拓いた。ゴール前での冷静さは、その賜物だろう。


極上ミドルシュートを生んだオフザボール(3点目)

 ダメ押しの3点目が生まれたのは85分。5-4-1への変更で、横のスライドを無くして、縦に入ってくるボールへの意識をさらに強めていた岡山は、縦パスを井上がカット。河野、上門とつないでボールは喜山へ。そこからデュークへ縦パスを当てて、落としを安部が受けて、左に展開。CBが相手陣内に入り、押し込む状況を作った。木村がドリブル突破を図るものの、相手に引っ掛かり奪われるが、素早い切り替えで宮崎と喜山でサンドイッチ。流れたボールをパウリーニョが回収。デュークと縦に抜ける河野によってDFラインが下がったところで、少し下りた上門がパスを受けて、右足一閃。”キャプテン翼”を彷彿させるドライブシュートでゴールネットを揺らした。

 政田での特訓の成果が出た。前が空いたら振り抜く。直近の試合では、スペシャルな右足を持つ上門の強烈なミドルシュートは影を潜めていた。どうやって、右足を振る状況を作り出すかという課題があった中で、DFからスッと離れるようなポジショニング。裏への抜け出しが目立っていた上門が、その反対の下がるオフザボールで右足を振る状況を作った。シュートの精度は言わずもがな。政田でのシュート練習を見学を通して、YouTubeを通して、見たことのある人なら決めてしまう力を持っていることは知っている。目の覚める強烈なミドルシュートが決まって、『これだよ、これ!』と興奮してしまい、思わず笑みがこぼれた。

 

ホームで強さを見せて掴んだ勝利

 2か月ぶりとなったホームでの勝利は、今季最多タイの3ゴール、2試合連続の複数得点と連勝、クリーンシート(無失点)と充実したものになった。主導権を握り、ゲームをコントロールすると、攻守で相手を圧倒して、結果を出す。応援するサポーターの前での勝利は格別。試合終了を告げるホイッスルが鳴り、選手の顔には笑みが浮かび、シティライトスタジアムは勝利の喜びという幸せムードで包まれた。

 自分たちのやりたいことがなかなか結果に結びつかない中で、苦しい時間も過ごしたけれど、試合を重ねるごとに少しずつ自信をつけて、昇格こそ翌年以降にお預けになってしまったが、自分たちが目指すものは間違っていなかったと手ごたえを感じるシーズンになりつつある。この手ごたえをどこまで高めることができるか。その結果、どこまで順位を上げることができるか。どこまで来季の繋がるものにできるか。残り8試合の見方になってくるだろう。目標の1桁順位まで、勝点差は6。次節は勝点差5の10位水戸と、最終節は勝点差6の9位千葉との対戦も控えている。目標を達成するチャンスは十分ある。この試合でも、途中出場の選手がやるべきことをしっかりこなし、試合を締めるという役割を果たしてチームの勝利に貢献した。総力戦。チームの全員で勝利を目指して残り8試合を戦い続ければ、きっと見たい景色を見れるはず。今シーズンも最後までココロヒトツニ。



ここから先は

0字

¥ 150

読んでいただきありがとうございます。 頂いたサポート資金は遠征費や制作費、勉強費に充てさせていただきます!