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マカオでスマホを失くした話

久しぶりの投稿になります。今回は思い出話を一つ書きたいと思います。

香港とマカオ

3年ぐらい前の夏に1週間の休暇を使い、香港とマカオへ一人旅をしました。

香港とマカオはこれが初めての滞在でした。
当時の私は、帰りの電車の中でいつも「深夜特急」という小説を読んで空想の旅行に浸っていました。そのため休暇の旅行先としては真っ先に活気ある香港が候補に挙がり、初めての滞在にもかかわらずこれらの地を一人旅の地として選びました。

1週間の滞在はほとんどを香港で過ごすことを予定しており、マカオの滞在は1日分を予定していました。そのため、マカオ滞在日は朝早く起き、当時香港とマカオを結ぶ唯一の手段であった船に乗るため、香港島の港に行き、そしてマカオに向かいました。

一時間ほどの船旅の後、私はマカオの地を踏みました。カラフルな建物、要塞跡や大砲など返還前の西洋文化あふれる雰囲気。そこは香港とは異国の世界が広がっており、私は歩き回っていました。

バス

さて、マカオでは市街地内の移動はバスが基本的な移動手段になります。

そのため、マカオ歴史地区を堪能した私もご多分に漏れずバスに乗り、次なる目的地へ向かおうとしました。

しかし、朝起きた時間が早かったからか、はたまた歩き疲れなのか、バスで移動中になんと寝落ちしてしまいました。

起きた時には、終着駅。そこは中国本土のすぐそばの場所で、観光地とはほど遠く、中国本土との交易をおこなうマカオの人々が働く場所でした。

海外旅行をしたことがある人は理解されていることかと思いますが、海外の公共交通機関ではスリや盗難のリスクが高いです。

私もそこは理解していたので、一瞬焦りましたが、寝ぼけていたのでとりあえず鞄があることに安心し、そのままバスを降りました。

バスを降りて、自分はどこにいるのか分からなかった。

とりあえず、売店でも探して飲み物を買って落ち着こう。そう思った時に気付きました。スマートフォンがない。そもそもスマートフォンと財布をまとめていた小さなポーチがない。カバンを見返してもない。おそらくバスを降りる時に落としてしまったらしい。

バス停まで戻りましたがすでにバスは車庫に入っていて、そこにあるのは穴ぼこのある道路と消えかけた横断歩道だけ。

頭の中に焦りが広がりました。寝ている間に盗まれたのだろうか。それともバスの中におき忘れたのだろうか。財布に入ってたクレジットカード止めないと。いや待て、そもそもスマートフォンがない中でどうやってここから香港に戻れるのだろうか。

清掃員

その時、ふと見ると若い清掃員らしき人たちが事務所らしきところに戻っているところでした。

彼らなら何か知っているのではないか。意を決して、ついていくと事務所の中には数人の人がいました。

何やら奥の方で数人の清掃員が集まっていました。よく見るとそこには私のポーチがあり、スマートフォンと財布もそこにあるようでした。

どうも清掃員の方がどこかで見つけて下さり、事務所まで持ってきていたようです。

見つけたことに喜びすぎた私は、私は何も考えずに事務所に入ってしまいました。

冷静に考えれば当然ですが、突然変な外国人が自分たちの職場に押しかけてきたわけです。誰だって警戒するでしょう。

事務所にいた清掃員の方々からは今にも捕まえてきそうな警戒心maxの状態で私を睨んできました。

当時の私はそんなことは全く気にならず、なんとかそこにある財布を取り戻すために、自分の財布だということを言葉で伝えようとするがなかなか通じません。日本語か日本語訛りの英語しか話せない自分にとって、両言語を知らない中国人と話すのなんて、宇宙人と話しているのと大して変わらないのでした。

漢字

お互いに明らかに苛立ってきました。

今にも警察を呼び出してきそうな状況の中、ふと、漢字なら通じるのでは?と、冷静な状況ならすぐに出てきそうなアイデアをやっとのことで考えつきました。

日本人と中国人、話すのは通じなくても漢字なら通じるだろう。でも紙とペンはどうしたら手に入るだろうか。よくわからないけど、とりあえずやってみよう。

そして、手で文字を書くような素振りをして、筆談をしたいという意思を表現しました。

その素振りは向こうにも通じました。そこら辺に置いてあったボールペンと何かの資料の裏紙を渡してくれました。

早速、私は漢字を書きました。

「我 失 私財」

これを見た清掃員の方々は、机の上にある財布を指さしたあと、私のことを指さす。私がうなずくと、やっとこの外国人が何をしに来たのか理解したらしい。

彼らはやっと警戒心を解いてくれて、机の上にあるスマートフォンと財布を私に渡してくれました。中身を確認し、財布の中にあった現金も無事でした。

スマートフォンがあればもうこっちのもの。そこからしばらくは向こうの事務手続きが終わるまで、事務所にいた人と翻訳機能を通して会話をしました。

私が日本人であること。香港とマカオを旅行しているということ。

マカオの若者では日本のゲームが流行していること。マカオでもこの地域に外国人が来るのは珍しいこと。

事務手続きが終わり、私は彼らに感謝の気持ちを伝えて、港まで向かい、マカオを去りました。

後記

スマートフォンが一般的となり、Google翻訳に代表される翻訳サイトに簡単にアクセスし、あっという間に触れたこともないような言語に翻訳できてしまう今日。

中国語を話せない私は旅行が始まるまで、香港やマカオの現地の人たちと直接会話するなんでできないと思っていました。何かあればスマートフォンを使って翻訳サイトにアクセスすればいいや、なんていう軽い考えで。

でも、スマートフォンや翻訳サイトにアクセスできない中ではそんな甘い考えは吹っ飛び、必死に模索する中で漢字という文字を通してなんとか自分の伝えたいことを相手に伝えることができました。

スマートフォンとか翻訳サイトなんてものが存在する数千年もの前から、人類は言語の違う人たちと交流しようとするたびに、言語間の通訳の方法を模索してきました。彼らは自分たちでなんとか意思疎通を図る方法を模索して、そしてその方法を確立してきました。その普遍的な行為に今回、自分は触れることができました。

あれから数年経ちました。あの後、私は少しだけですが、彼らの言葉である中国語(広東語)を学びました。いつの日かまた香港やマカオに行き、直接現地の人と会話をしてみたいと思います。

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