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かわせみ
2020年8月29日 02:06
少女は太平洋の中心にある島の小さな家に家族四人で暮らしていた。この島には二三軒のご近所しかおらず、少女と同年代の子供も居なかった。電子機器の類は無く、住民は皆漁で生計を立てていた。何も楽しみがないような小さな島であったが、少女は家族を深く愛し、幸福を感じていた。そんなある日のことである。彼女が島のはずれでうろうろしていると、浜に打ちあがった大きな鉄の箱を見つけた。箱は剥げかけたカラフルなペンキ
2020年8月27日 01:48
受験に大失敗した私は、帰りのバスで白く染まる街を眺めていた。今までの行動を顧みるでもなく、ただ外を眺めていた。不思議なことに、街はモノクロにも極彩のようにも見えるのであった。そのように見えるのは、失敗した時のあっさりした放心からだろうか、それともこれから始まる浪人生活への緊張からくるものなのか。 街はいつも通りの賑わいであった。街灯のイルミネーション、しんしんと降る粉雪、楽しそうに笑う子供たち
狸奴-Rido-
2020年8月25日 22:33
ーこれからボイスメッセージとして我々の事を話していこうと思う。ここに我々が来たという証拠としてーさて、最初から話していこう。我々は人口爆発により環境の破壊されつくした母星アクリスを脱し、人の住める星を求めて何百光年も先の宇宙へと漕ぎ出した移住計画船の一隻だ。共に旅立った船達は、一隻また一隻と別れて行った。果たして彼等は第二の母星となる惑星を見つけることが出来たのだろうか…。我々の船も食糧が
2020年8月25日 22:29
真っ白な原稿用紙のマスが、どんどんと埋まっていく爽快感がたまらなく好きで、作家としてデビューしてから15年、ずっと手書き原稿で書いてきた。万年筆にインクを吸わせていると、徐々に言葉を紡ぐ気持ちになっていくし、インクが切れると今日は書いた!と実感できるのも良い。この万年筆は、デビューが決まった時に父が祝いとして贈ってくれたものだ。当時はひたすら物語を書くのとバイトに追われ、連絡をする事も実家
千寿
2020年8月25日 20:16
その町には、死体をオルゴールに加工する職人が居る。初めて見たその職人の作品はとても美しかった。肋骨のボックスに入った宝石で作られたオルゴール、薄い黄色をしている。なんでもこの宝石は血液や骨から作るらしい。その宝石をオルゴールに加工しているのだ。ネジを回してみる。チュチュ、チチチ、鳥の声が歌い出す。タイトルを見ると『メジロ』と書かれていた。これはメジロの死体から作られているのだろ
2020年8月25日 19:10
それは不思議なモノだった。鳥の巣の中にある、キラキラとしたモノ。卵型をした琥珀。中には鳥のヒナの姿が見える。それと少しの液体。これは1週間前にとある鳥-鳥と言って良いのか分からないが-が産んだモノだ。その鳥っぽいナニカは、クオンッと空に向かって一声鳴いた後、中が透けてみえる程薄い琥珀の卵を、巣の中に5つ産み落とした。中には液体が揺らめいている。私がその姿を見れたのは運が良かった