見出し画像

白亜の星

ーこれからボイスメッセージとして我々の事を話していこうと思う。ここに我々が来たという証拠としてー


さて、最初から話していこう。我々は人口爆発により環境の破壊されつくした母星アクリスを脱し、人の住める星を求めて何百光年も先の宇宙へと漕ぎ出した移住計画船の一隻だ。共に旅立った船達は、一隻また一隻と別れて行った。果たして彼等は第二の母星となる惑星を見つけることが出来たのだろうか…。

我々の船も食糧が尽き掛け、いよいよこれまでかと言う時、この星を見つけた。大気、重力、植生、生き物なども驚くほどにアクリスに似ていて、メンバー全員が驚いた。

宇宙空間から眺めていたこの星は、大半を青い海が占めており、サンゴ礁の星なのだろうか、石灰石のような白い島が所々に点在している。この星と呼ぶと面倒くさいので、我々はアクスペアと名付けることにした。

さっそく星へと降り、周辺の調査をしつつ水や食料を確保することにした。塔のような細長い岩山がある島の一つを拠点と決めた。実際に降り立ったアクスペアは、一見自然豊かに見えるのだが、非常に人工的な印象の星だった。

石灰岩だと思われていた島の地面は、我々の機械では分析できない鉱石で出来ており、大きなブロックを積み上げ並べたものだった。塔のような岩山も、まさに人工的に作られたであろう塔だった。

それが見える範囲の島全てに1本ずつ立っている。

海底を覗き見ても、同じく白いブロックが敷き詰められているようであった。どうやら、星全体がこのブロックで覆われており、その上に水や動植物がいるようだ。しかし、何か知的生命体が生活している痕跡はなく、滅び去った文明の遺跡のようだ。幸い、大気にも水にも我々の害になるものは無く、動植物は我々に馴染みのある物が多く、分析結果でもそのように出た。

我々は安心して宇宙服のヘルメットを外し、久々に外の空気を吸ったのだ。潮の香の強い、懐かしい味がした。崖の上からどうどうと落ちる滝は圧巻であった。水底には大きな魚影が沢山あり、全員が童心にかえったかのように釣りをした。

久しぶりの新鮮な食材を食べ、幸福感の中で眠りについた我々だった。この時、水や食料の補給だけして、この星から立ち去っていれば良かったのだ…。

異変は翌日から起こった。まずは機関担当のビルが、塔の中から人の声がすると言い出したのだ。そんなまさか。と他のメンバーは信じなかった。探査装置で周辺を探査したが、この島周辺には人らしき生命反応は無かった。

塔の周りも調べてみたが、入り口も無ければ窓すらも無い。中に空洞があるのか調べてみたが、空洞は無く大きな石を積み上げただけのものだという結果が出た。ビルの勘違いという事で、その場は終わった。しかし、翌日起きてみるとビルの姿は何処にも無かった。「俺はあの塔へ行かなければならない」そう書置きを残して、ビルは消えてしまったのだ。

全員で島中を探した。例の塔にも探しに行ったがこれと言った痕跡などは残っていなかった。そして、薄暗くなってもビルを発見する事は出来なかったのだった。

島に降り立ってから4日目の朝、今度は操舵手のマイケルと通信手のサキが、人が呼ぶ声がすると言い出した。やはり塔の中から声が聞こえるというのだ。

まさかこの星の文明がまだ滅んでおらず、地底にでもいるのだろうか。それとも、何かの装置が生きていて電波を発生させているのだろうか…電波探知をしても何も出ず、言いようのない恐怖を感じた。

「この星に居てはいけない…」

残ったメンバー全員がそう思った。

ビルが戻ってきても良いように、食料や備品など一人分だけ残し、通信装置で連絡をしてくれれば迎えに行くと書き残した。その日のうちに荷物をまとめ、星の軌道上に待機させてある母船へ戻ろうとした時、マイケルとサキの姿が消えた。

彼等もまた、この星にあの声の主に会わなければならないと書置きを残し居なくなってしまったのだ。もう、残された我々3人は半分パニックになっていた。確実に、何者かによって精神汚染をされている。

3人で連絡船に詰め込めるだけ荷物を詰め込み、逃げるように母船へと戻ったのだ。気味の悪い星から脱出できホッとした。このまますぐにこの星から逃げたいが…消えた3人を残してこの星を去るわけにもいかない。我々がキャンプをした島を中心にドローンや監視衛星を配置し、3人の行方を捜すことにしたのだ。

それから2日間あらゆる場所を探すが、やはり3人の痕跡すら見つけることができなかった。

「もう、あきらめて我々だけでこの星を去るべきではないか…」という思いと、「この星のような豊富な食料や自然環境の星が見つかる保証はない」という思いが我々の中に渦巻いていた。

そして今日、我々がこの星を発見してカラ10日が経った。残った書置きを残してメンバーが姿を消した。私を含め6人いたメンバーは遂に私一人になってシまった…精神汚染のチェックもしたが、全ての項目において正常と出た。

あぁ、私を呼ぶ声が聞こえる…行かなけれバ…このメッセージを聞いているどこかの星から来た人ヨ。あなた達はこの星に長居してはいけない。

この星ハ…この白い星は…人を糧に大きくなる…星そのものガ…一つの生命体ダ…

飲み込まれる前ニ…逃げろ…私は…もう船には戻れない…体がそちらへ行けないのダ…

ああ、声が聞こえル……白い壁にナらナければバならなイ…

……私が加ワれば…コノ…星はまた大キク…ナレ…ル……

アアアアアア…ヨンデイル……

イカ…ナ…ケレバ……コノ星ヲ…大キク……スルタメ…ニ…

ザザザザッ…ブッ………


-終-

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?