見出し画像

封を開けた日

高校を卒業して上京する時に

「辛くなったら読みなさい」
とひと言添えられ

受け取った母からの手紙

その封を開けられないまま
でも大事に棚の奥にしまいながらも
気づけば数年が過ぎていた

多少辛いと感じた時も
まだ、今じゃないと強がって
ずっと読むのを先延ばしにしていた

封筒は当時のまま残っていて
でも多少色褪せノリは軽く剥がれていて

それをようやく開封しようと思う

今を逃したらまた
何年も放置してしまいそうだから

便箋には丁寧に書かれた母の文字
久しぶりに見る綺麗な文字が数枚綴られていて
まるで目の前にいるかのような口語体で語りかけた

「あなたは弱音を吐くのが苦手だから
なんでも我慢してしまう性格だから
何年も何十年も後になってようやく
この手紙を読んでいるのかもしれませんね。

もしかしたら私が旅立つ時にでも
初めて封を開け読んでいるのではありませんか?」

母は全てお見通しだった

安らかな顔で眠る母を目の前にして思う

この手紙があったから
辛いことがあっても、もっと辛い何かが
この先にあるんだとそう思えたから
今まで頑張れて来れたんだと

もう返事も相槌ちも出来ない母にそう伝えた

心の中で、届かないとわかりつつも
でもしっかりと聞いてくれているようにも感じた

母の前で涙を流すのはいつぶりだろうか?

泣く姿なんて母以外に見せた事は無かった
それはきっとこれからも同じなのだろう

学校をズル休みしようとして
よく怒られて泣いていたっけ
ただただ眠りたくないってだけで
泣いていたこともあったな

一緒に作った不恰好なケーキを
上手く出来たねと褒めてくれたっけ
見つけた四葉のクローバーをあげたら
物凄く喜んで大事にしてくれたっけ

そんな、何でもない記憶が蘇って来て
安心感で包まれていた日常を思い出して

自然と笑みと涙が同時に溢れ出していた

周りには人もいるのに
涙を拭う事も隠す事もしなかった

僕のすぐ隣で
同じような表情をしている
母の面影を感じたから

この記事が参加している募集

眠れない夜に

今こんな気分

カフェで書いたりもするのでコーヒー代とかネタ探しのお散歩費用にさせていただきますね。