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呻吟

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自分の思想が滲み出たフィクション小説、『呻吟』です。 さとり世代の呻吟と思春期の葛藤を描く、ユース・サスペンスドラマ。 呻吟は”しんぎん”と読みます。葛藤の類義語です。
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#ほろ酔い文学

【呻吟】死

【呻吟】死

 自室に戻ると、罪を犯す前、元通りだった。改めて親への感謝が溢れてくる。砂の世界と似た雰囲気を部屋に覚え、みょうな落ち着きがあった。
 まだ彼との約束が、アドレナリンをとめどなく放出させてくる。あんな賭けはしたが、実際はそれを上回る海外大に受かろうと、芸術や作品に没頭して世間に認められようと、彼は賭けに勝ったことにしてくれるだろう。私がそれこそ文字通り、一生懸命にアツくいられる対象を見つけられれば

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【呻吟】ーーとの賭け

【呻吟】ーーとの賭け

 父、母が複雑そうな面持ちで立っていた。
 一年振り。こんな娘を迎えに来てくれるようなそんな寛大な親だったらしい。
 おかしなもので、私の心は浮足立ち。社内での両親の話も耳に入ってこなかった。
 それもこれも、両親の発した一年振の言葉が、失跡でもお帰りでもなく、「殺人未遂で事情が事情だったから、こんな一年で帰ってこれたんだ」というようなことだったからだ。期待せざるを得ない。

 他にも、「精神病」

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【呻吟】 ユイの戯言Ⅱ

【呻吟】 ユイの戯言Ⅱ

「君は、これから先、何をして生きていくつもりなの?」まるで、私には未来が残されてなんてないという風に、ユイが素朴な疑問んを投げつける。自身のことを教えなさい、と。

「私とあなたが出会って、7日も経ったんだから」愉快気にそう呟く、ユイの示す事実に少し驚く。

 もっと時間が経っているものだとばかり思っていた。9ヶ月と1週間、体感では同じだった。
 ゆいがまたいつ砂に帰ってしまうかもわからない。そん

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【呻吟】 ユイの戯言Ⅰ

【呻吟】 ユイの戯言Ⅰ

 ここ砂丘では、時間の経過が早い。正しくは砂丘とも呼べないのかもしれないが。
 ほんのりと暖かい白のみが広がる箱。
 ある一定の距離を進むと、見えざる壁と対峙することとなるこの異次元空間は、箱である。
 広がる砂の真上には、古今東西あらゆる『美』を寄せ集めた黒い天井が存在する。唯一とも思われる丘の、隆起した頭に腰を掛けると、一望を楽しむことができる。
 砂に美しさを見出すこと、9ヶ月。9ヶ月とは、

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呻吟

呻吟

「私たちって、どういうカンケイ?」
 目の前の中学3年生の彼、ーーは、私望む言葉を用意しているのだろうか。
 友達、幼馴染、知り合い。それとも、彼氏彼女同然?一体なんだといえるのだろう。私は・・・どれかには当てはまると思うし、どれにしても違和感を覚える。誰かに、この関係を定義してもらいたいのだろうか。
 否、たとえ科学的なデータに基づいて、どこかの誰かに定義されたとしても、きっと私は納得しない。つ

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