【連載小説】平々凡々な会社員が女子高生に!? vol.33 「登下校」
帰宅。
まだ誰も帰ってない。
俺はローファーを脱ぎ捨てると、二階の自分の部屋まで小走りで行った。
いろんなことがありすぎた、疲れた……
そのままポフンとベッドにうつ伏せになり、ボーッとしばらく過ごした。
そのうちにユキノが帰って来る音が聞こえ、俺はゆっくり起き上がった。
ユキノにお土産の絵はがきを渡すと、
「ださっ。今時こんなお土産買う人がいたんだ」
と、大絶賛された。
「だって他になかったんだよ」
と言うと、
「ご当地キディちゃんとかあったでしょ!」
と言い返されてしまった。確かにあった気がする。でも、それにしたところで、ユキノは使うのか?と言うとまた別問題らしい。
やがて母が帰ってきて、俺は夕食の支度を手伝い始めた。
昨日の
「坂井は上手いんだってよ」
という言葉がリフレインして頭から離れない。
頭痛がする。
坂井は帰り道、自転車でうちまで送ってくれた。遠回りになるというのに、自分から送っていくと言って聞かなかったのだ。荷物はほとんど宅配便で送っていたため、幸い荷台に俺は乗ることができた。っていうか、坂井の家まで自転車で一時間は軽くかかると想うんだけど、よかったのかな……
坂井のことばかり頭に浮かぶ。
付き合おうって言ってくれたんだし、もっと彼氏を信じなきゃだめだよね。頑張れ、俺。
そう、俺たちは付き合いだしたのだ……まだ実感が湧かないけど、何日か経てば慣れるでしょ、と自分に言い聞かせる。
そりゃ、付き合いだしたばっかり、今日送ってもらった以外、まだなにもしてないんだから、実感が湧かないのは当然とも言えるだろうけど、それにしても現実感が全く湧かなかった。
まるで嘘だったように。
だから、翌日、坂井が迎えに来てくれたときにはホントに驚いたし、嬉しかった。
俺もしたかったんだよね、彼女と登下校。迎えに行く側じゃなくなっちゃってるけど、気にしない!
昨日の今日で、何から話すといいかわからない。坂井はさりげなく気遣ってくれて、バッグを自転車の前の荷台に乗せてくれている。俺は何から話していいかわからず、とりあえず今日の天気について話す。
「今日はすごく晴れてるけど、寒さが厳しいねー」
「うん、去年の最低温度より下回っているらしいよ」
最初の会話だけ掴めれば意外と話って盛り上がるもので。俺たちは期末テストについて大いに盛り上がった。
どの先生がどこの問題をポイントとして出してくるか、その当てっこだ。
電車の中でも話が進む。
なのに、もやもやとした気持ちを隠しきれない。
「どうした?加藤?気分でも悪いん?」
いつもこの人は鋭いな、と思いつつ、ううん、と首を振った。
「なんかあるんだろ?話してみなよ」
「聞けないもん」
「え? なにを聞けないって?」
「聞けないなんて言ってないっ」
「いいから、話してみなよ」
「じゃっ、じゃあ単刀直入に聞くけど、坂井くんはエッチってしたことある?」
「はぁ? なんでいきなりそんな……」
「話してみろって言うから正直に聞いてるの!!」
「したことねーよ」
「嘘つき! 坂井は上手いって、聞いたもん!」
「誰にそんな話を聞いたの?」
「しゅ、修学旅行のときに、みんなが言ってた」
「はぁ……なんでそんなこと……で、ユウは信じるの?」
あ、今、名前で呼んだ……
「あ、ごめん。勝手に名前で呼んでた。みんながユウ、って呼ぶから……」
「ううん、嬉しい。それと、私、坂井くんを信じることにする」
「噂話なんて適当だからな。ありがと。信じてくれて」
そう言ってニコッと笑う坂井を、俺はいとおしいと思った。