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映画大好き

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5月某日

5月某日

映画『ファーザー』を観にいった。認知症になった父親の話で、取り巻く娘や夫など身の回りのことが描かれる。アンソニー・ホプキンズがアカデミー賞主演男優賞を受賞している。なぜここまで評価されたか、上映から数分ですぐにわかった。こんな作品は今まで観たことがないのである。最後まで観終わって観客の手元に残る確かなことは、現在、介護施設に入っていることと娘がいること。それは父親が抱いていることとほぼ同じなのであ

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映画『サンドラの小さな家』を観て

 観る前に抱いていた期待は、いい意味で裏切られた。『サンドラの小さな家』はDV夫から逃げて棲む家を失った母親が、自力で家を建てようとする話である。筋は知っていたけれど、驚いたのはその強さ。子どもを守りつつ、暴力に怯えながら生きる女性のつらさ、公的支援をなかなか受けられない弱い立場の人たちの今が、画面を通して強く訴えかけられる。

 それもそのはず、本作は主役のサンドラを務めたクレア・ダンが友人の窮

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映画『ミナリ』を観て

 80年代のアメリカ・アーカンソー州にやってきたある韓国人一家の物語です。アメリカでビッグドリームを叶えようと父が連れてきたのは、荒地にポツンと佇むトレーラーハウスの前。年の割には落ち着いた姉と、まだ子どもらしさが十分に残る7歳の男の子は「家に車がついている」と面白がりますが、妻はそういうわけにはいきません。まだ慣れないけれどこの地で、孵卵工場での仕事で安定した生活を送りたい妻と、広大な農場で韓国

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映画『わたしの叔父さん』を観て

人の善意とはこんなにもあたたかいものなのか、と思えた映画であった。それと同時に人生とはどうしようもないときもあって、優しさがいくつ集まっても越えられないものもあるという、切なさも感じた。

『わたしの叔父さん』は、家族を早くに亡くし、農場を営む叔父さんに引き取られたクリスの毎日を描いている。クリスは若く美しい。大っぴらに将来を望んでも咎められることはないはずなのに、自分で自分にブレーキをかけている

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映画『この世界に残されて』を観て

映画『この世界に残されて』を観て

 『この世界に残されて』はナチスドイツの支配下にあり、約56万のユダヤ人が殺害されたハンガリーの戦後、1948年が舞台である。この年はソ連支配が強まり始めたころであった。ホロコーストの残酷な爪痕と社会主義化前夜の市井の人々が描かれる。

 両親と妹を失った16歳のクララ(アビゲール・スーケ)は、診療で出会った寡黙な中年医師アルド(カーロイ・ハイデュク)に同じ境遇を嗅ぎとり、心を寄せるようになる。彼

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映画『ペイン・アンド・グローリー』を観て

映画『ペイン・アンド・グローリー』を観て

 人は、少なくとも私は、落し物をしながら人生を歩いているのかも。何も間違いを起こさない人生、思った通りの人生なんてあるのだろうか。そう考えさせてくれた作品である。

 6月に観たスペイン映画『ペイン・アンド・グローリー』は、『オール・アバウト・マイ・マザー』の傑作で知られるペドロ・アルモドバル監督の最新作。主演はアントニオ・バンデラスで、年を重ねるほどに美しいペネロペ・クルスがまたいきいきとしてい

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