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江戸川乱歩の弟・平井蒼太が発行していた土俗趣味雑誌?『麻尼亞』

 江戸川乱歩の弟・平井蒼太が発行していた雑誌のひとつに『麻尼亞』という雑誌がある。この雑誌名はWikipediaの平井蒼太の項にも登場するのでご存知の方もいらっしゃるかもしれないが、この雑誌は図書館や研究機関に所蔵がないため、どのような雑誌であったのかはあまり知られていないように思われる。『麻尼亞』は全6冊出版されており、ざっさくプラスに全号の目次が掲載されているが、書影は確認することができないので以下に架蔵の第一冊の写真を掲載しておきたい。なお余談であるが、ざっさくプラスに第六冊の情報を提供したのは私で、全号の目次が確認できるようになった。(2022/11/22付の「今月の新規登載情報」で紹介されている。)

大きさ 20cm×15.3cm、和装
印刷:昭和7年11月25日
発行:昭和7年12月1日
編集兼発行人:平井通
印刷人:石曽根廣作
印刷所:石曽根印刷
発行所:平井蒼太
頒布申込所:山本定一
ページ数:16項

表紙
奥付
目次と創刊のことば

平井通は平井蒼太の本名で、桃源堂主人は平井とこの雑誌を共同で発行していた山本定一である。上記に載せた写真に創刊のことばがあるが、あらためて以下に引用してみたい。

麻尼亞の言葉
 世の中のもの総べてが、何れも是れも有要なものであるとは限らない。社会にも人生にも、寧ろ有害無益なものすら多く、そしてそれらが却って人々の喝采を得ている場合さえある。だがら『麻尼亞』だって存在する余地はある筈だ。
 出版物の数量の夥しいことは、誇っていいことかも知れぬが、しかしその過半は、僕たちにとって距離の遠いものである。だから僕たちの望むところの書物は、案外少ない数であろう。だから『麻尼亞』の存在も許されていい筈である。
 兎に角『麻尼亞』といふ小冊子を、僕たちの雑誌として持つことになった。勿論この雑誌は、何等の主義主張も持たなければ、研究の主題とするものも持たない。強いて言へば、民俗・風俗などの、極めてPrivateな研究報告の小冊子といふことも出来やう。材料の蒐集、それの整頓、といふ点から言へば、確かに僕たちはCollect-Maniaに相違ない。だからその内容は飽くまでも従吾所好であり、耽好であり好きな道である以外に、一歩も踏み出す事は為し得ない。
 依頼され命令されたものではないから、従って僕たちは熱情を籠めたものだけを、この雑誌に盛って行くことが出来る。これが僕たちの雑誌に対する悦びである。そして櫻の花のやうに、或は一瞬にして消え去る花火のやうに、この雑誌は六冊を以て廃刊することになっている。創めと終りを兼ねて、『麻尼亞』の言葉とする。(一部を筆者により現代仮名遣いにあらためた。)

この文章は『麻尼亞』がどのような雑誌であったかを端的に表現したように思われる。この雑誌の性格は現在でいうところの民俗学雑誌に近いようにみえるが、むしろ田中緑紅の『郷土趣味』や加賀紫水『土の香』が標榜していた「郷土趣味誌」、「土俗趣味誌」に近いのではないだろうか。架蔵の『麻尼亜』は全号揃っているので、ざっさくプラスの目次では分からない部分を中心に今後定期的に紹介していきたい。

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