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【みみ #4】娘の聴覚障害を探し克服に奔走した研究者
吉岡 英樹さん(前編)
東京工科大学でメディアを教える吉岡さんの経歴は華々しい。バークリー音楽院卒業後、Mr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューザーのマネージャーを務め、CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターも務めた。そんな吉岡さんの研究室は『聴覚障害支援メディア研究室』。
聴覚障害に取り組むきっかけは、娘さんだった。
娘さんは2歳になっても全く言葉が出てこず、名前を読んでも振り向かない。当初「難聴」ではないかと疑ったが、常に聴力検査を“passしてしまう”。そのため、発達障害のクリニックも回ったが、判然としない日々が続いた。吉岡さんは当時を「落とし穴に落ちた感覚」と振り返った。
実は、聴力検査には2つの方法がある。一つは、音に対する反応を内耳まで検査する『OAE(耳音響放射)』。これに「pass(反応あり)」すると、「音そのものは聞こえている」ことを意味する。もう一つは、音に対する反応を内耳より先の聴神経や脳幹まで検査する『ABR(聴性脳幹反応)』。これに「pass(反応あり)」すると、「音の情報がうまく脳に伝わっている」ことを意味する。
吉岡さんの娘さんの場合、OAE検査で「聞こえている」と判断される一方で、言語聴覚士の先生の助言でABR検査や遺伝子検査を行うまで「聞こえているが、音の情報を理解できていない」ことに周囲が気付くことができなかったのである。これは『オーディトリー・ニューロパチー』という聴覚障害(以下『AN難聴』)で、娘さんは4歳の時に初めてその診断を“受けることができた”。
その後、『AN難聴』でも人工内耳をすれば「聞こえるようになる」ことはわかっていたが、その手術の適応基準を満たすことを証明するにも大きな苦労をされた。人工内耳を埋め込む手術を受けてやっと言葉が聞こえるようになった頃、娘さんはすでに5歳半になっていた。
毎日家族や友達と話したり環境から聞こえてくる言葉を聞くことで話せるようになる「聞こえる子供」と違い、「聞こえない子供や聞こえにくい子供」は、意識的に言葉を覚える家庭学習で補う必要がある。一般的に絵日記を書いたり、言葉カードを使って学習する。
しかし、小学校に上がるまでに覚える必要があると言われる言葉は3,000語以上。各家庭が自ら対応することは不可能だ。しかし、難聴児向け学習のための適当なアプリも見当たらない。
最終的に、吉岡さんは自分自身で、言葉を楽しく覚えるアプリ『Vocagraphy』を企画し、2020年にリリースするに至った。この取組はメディアでも取り上げられ、ダウンロード数は2万にも及んだ。現在、聴覚障害者だけではなく発達障害でも、また子供だけではなく失語症の大人の方でも利用されている。
(後編に続く)
▷ 聴覚障害支援メディア研究室
▷ Vocagraphy
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