【みみ #5】当事者家族の経験から社会課題を解決する
吉岡 英樹さん(後編)
(前編から続く)
吉岡さんが娘さんのために開発し、今や聴覚障害に限らず利用されている、言葉を楽しく覚えるアプリ『Vocagraphy』にも課題はある。
アプリ開発はこれまで自腹で且つ知り合い伝手に依頼してきたため、OSのアップデートに対応したり、今後はゼロから作り直す必要にも迫られている。そのため、これ以上は、新たに協力してくれる開発者や開発資金が必要な状況だ。
また、それ以上に吉岡さんが懸念されるのは、こうしたアプリがあっても「それが保護者に伝わり、家庭で使ってもらえるかどうか」。
聴覚障害は1,000人に1人とも言われ、かつ症状も様々で、どうすればいいか親としてもわからない。吉岡さんが自身を振り返っても、聴こえづらさのある当事者とその家族のための団体『みみプラネット』とオンラインでやり取りしたり、各自治体には難聴児が指導を受けられる『きこえの教室』もあるが訪問した教室は1~6年生合わせても6~7人と、情報収集の範囲は極めて限られるのが現状だ。
さらに、吉岡さんは聴覚障害の学会や、聴覚障害児の取りこぼしを防ぐことに熱心な先生や著名なろう学校など全国を訪ね歩く中で、「聴覚障害児への支援は地域差があり生まれた場所に影響を受ける」ことに気付くとともに、家庭内での学習支援が重要になるにも関わらず「ろう学校まで遠かったり、親も働いていたりと、小学校高学年まで放っておかれ取り残されている」ケースも数多く見た。
かつて自分が感じた、親としてどうしたらいいのかわからない「落とし穴に落ちた感覚」は、「社会の落とし穴」でもあった。
「家庭での学習支援は時間的にも経済的にも余裕がないとできない」。だからこそ、保護者が家庭内での学習支援をどう効率よくできるかがカギだ。
そのため、吉岡さんは、開発したアプリ『Vocagraphy』をアップデートしてより多くのご家庭に使っていただくことはもちろん、難聴児の親として何をすればいいかノウハウや教材をリコメンドしてくれるような機能の必要性を感じている。現在、娘さんの難聴をきっかけに知り合った言語聴覚士の先生と新しいサービスも検討中だ。また、もともとの音楽のバックグラウンドを活かして、コンサートイベントでの聴覚障害者への配慮についても研究を進めている。
そろそろオンラインでのインタビューを終えようとしたとき、吉岡さんのご自宅に娘さんが帰宅された。今は一般の学校に通われている。「せっかくなんで」とWeb会議のカメラに娘さんも登場して、私と普通に挨拶を交わしてくれた。その後、「じゃあ塾の準備をして」と吉岡さんが娘さんを画面から送り出す。
この当たり前の会話や生活が実現するまでにどれほどの苦労があったか。それを支えた吉岡さんの愛と努力によって生まれた成果が「社会の落とし穴」も埋めることにつながるはずだ。
▷ Vocagraphy
▷ みみプラネット
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