#83 コスパから考える『宿泊税』
2024年11月某日
先日、中国地方のとある地方都市のホテルで一泊した。チェックアウトの朝、ロビーでぼーっとしていたら、お年を召した男性が、なにやらホテルスタッフに詰め寄っていた。どうやら、ホテル側が男性に案内した「宿泊税」と「入湯税」の支払いについて「ワシャ、きいとらん。」ということらしい。若いホテルスタッフは、ただただ「税」の説明をする方法しかなく、少々不憫な様子であった。なお、宿泊税を徴収しているのは行政であり、ホテルは徴収実務を「代行」しているだけである。念のため。
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さて、足元、全国さまざまな地域で「宿泊税」の導入に向けた議論が進んでいる。そもそも、宿泊税とはどういったものか。観光庁の資料の中には、以下のような説明があった(太字は筆者によるもの)。
ようするに、ポイントは「自治体が独自の財源として徴収する目的税」「お金の使途は、地域の魅力向上と住民負担の軽減」みたいなことなのだろう。観光地が観光地として、素敵であり続けるにはそれなりに景観やインフラのメンテナンスはもちろん必要だから、そのためのお金ということである。また、オーバーツーリズムなどが起きてしまえば、ごみや騒音などの問題から、その地域で暮らす人々のQOLが下がってしまうので、宿泊税の導入による「旅行コスト」を引き上げ、需要を調整するという側面もあるようだ。観光地が観光ビジネスを持続的に提供し続けるためのしくみなのである(自治体職員のような説明になってしまった)。
宿泊税の理念・思想について、総論で反対する人はあまりいないだろう。一方で、筆者のようなユーザー(旅行者)の立場から捉えてみると、見え方がずいぶん異なる。ようするに、値上げ、コストの増加なわけである。また、ホテルなどの観光事業者からしても、「徴収を代行する」というオペレーション・コストを引き受ける格好となる。単なるオペレーションならまだしも、時にはクレーム対応にまで発展するケースもあるため、負担感としては小さくないだろう。ホテルスタッフのみなさんからすれば、「宿泊税?ワシャ、きいとらん。」と言われても、どうしようもないのである。おつかれさまです。
筆者としては、この手の議論について、状況を前向きに打開するには、「コストをいかに減らすか」という議論にとどまらず、「ベネフィットをいかに増やすか」という方向に目線を振り向けたほうがよいと思っている。マイナスはどれだけ小さくしてもマイナスなのである。そうではなくて、第一歩として「ベネフィットを可視化」することが必要だと思う。これによって、「マイナスを減らす議論」から「コスパの議論」に発展させることができる。なお、現状の宿泊税については、かなり多くの事例で「ベネフィット」が見えづらいと思う(たまに、観光地に設置されたトイレなどに「これは、宿泊税でつくられましたなどと、もうしわけ程度に書いてあるのだが)。誰に対して、どのような恩恵があるかを上手に訴求する、というか、訴求の前に「恩恵があるものなのだ」という事実を知ってもらうことが大切だろう。税のプロジェクトというより、パブリック・コミュニケーションのプロジェクトのような気がしてきた。
施策の目的や検討のねらいがしっかり見えることは、地域のストーリーの可視化にも近いような気もする。観光地の整備という「過程」にお金を払う宿泊税というしくみは、ある種「プロセス・エコノミー」的なものなのかもしれない。知らんけど。
ほなら。
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