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名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)05

▼ 本記事はこちらの続きとなっております。

名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)01
名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)02
名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)03
名刺代わりの小説100選・2024年版(コメンタリー)04

091.ハサミ男/殊能将之
092.王とサーカス/米澤穂信
093.転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿/笠井潔
094.向日葵の咲かない夏/道尾秀介
095.火蛾/古泉迦十
096.ガダラの豚/中島らも
097.Ank: a mirroring ape/佐藤究
098.言語の七番目の機能/ローラン・ビネ
099.異常(アノマリー)/エルヴェ・ル・テリエ
100.そして誰もいなくなった/アガサ・クリスティ

 最後はミステリ・サスペンス小説から10冊選んでみました。〆は『そして誰もいなくなった』、不朽の名作です。多くは有名作・話題作ばかり並んでいるので説明不要かもしれませんね。(そうなったのは自分がミステリに詳しくないからでもあります。)

 本記事で取り上げたいのは、笠井潔『転生の魔 私立探偵飛鳥井の事件簿』/ローラン・ビネ『言語の七番目の機能』の2冊。どちらも推理に関わらない部分の記述が豊かで、それゆえに推理小説以上の深みを見出すことができました。

『転生の魔』は、ミステリとしての完成度は(同作者でもより良い作品があるだろうという意味で)そこまで高くないと感じるのですが、作中で描写される学生運動の雰囲気や矛盾、思弁小説的な語りに惹かれました。また、タイトルからお察しになった方もいらっしゃるかもしれませんが、私の大好きな作品が引用されています。そういう点でも外せない一作だと感じました。

『言語の七番目の機能』について。ローラン・ビネは『HHhH』の方が有名かもしれません。ですがこちらも面白いです。作者はロラン・バルトの交通事故死という史実に疑問符を挿入して、ミステリ小説に仕立て上げてしまいました。なんとロラン・バルトを殺した犯人がいるというのです! 作中に登場するフランス現代思想の大家たちもたいそうコミカルに描写されていて、(そこまでしてええんか?、と思いつつ)読んでいて笑ってしまいます。

 ここで一つ注釈を。言語の機能について、言語学者であるヤコブソンは下記の6機能に分類しています。

・現実や状況を描写するための「指示」機能
・間投詞といった発話者自身の感情や態度・立場を示す「感情表出」機能
・「諸君!」のように相手に呼びかける「働きかけ」の機能
・挨拶や相槌といった「話しかけ」の機能
・「今の話わかった?」というようにお互いの理解をすり合わせる「メタ言語的」機能
・言語を美的感覚によって捉える「詩的」機能

※術語については作中の表現を用いました

 ここにもう一つ、言語には隠された機能があるのではないか? これが『言語の七番目の機能』というタイトルに回収されていくことになります。が、実のところどうなのか。その点については小説を読んでお楽しみいただけると幸いです。

【終】

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