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私の読書日記~大江健三郎『同時代ゲーム』→中上健次『日輪の翼』→村上春樹『海辺のカフカ』

今日は「昨日のつぶやき」の内容を少し掘り下げてみたい。

大江健三郎『同時代ゲーム』→中上健次『日輪の翼』→村上春樹『海辺のカフカ』と読んでいくと、日本の村落は段々と「帰れないもの」として認識されていくのが解りますね。『同時代ゲーム』は村の出身者が語り手となるのに、『日輪の翼』では村を追われ、『海辺のカフカ』では外から入るしかない。

同時代日輪カフカ (1) - コピー

大江健三郎『同時代ゲーム』

『同時代ゲーム』はいわゆる書簡体小説だ。

〈谷間の村〉の出身者である男が、妹に手紙を送りつけた。圧倒的な熱量で村の歴史や伝承が書かれている。分量も長い。『こころ』で先生が送った手紙よりもはるかに長い。小説の読者はその手紙を読むことになる。

重要なのは「主人公に帰る故郷がある」ということだ。彼は実際に四国の村に帰ることもできるし、村の歴史や伝承や民話を受け継いでいる。現実的にも精神的にも、彼には故郷がある。この点が後に紹介する2作と異なっている。

中上健次『日輪の翼』

個人的に本作はロードノベルだと思っている。

紀州・熊野の〈路地〉を追い出された老婆たちが、若者と一緒に冷凍トレーラーで旅をする。行き先は伊勢、一宮、諏訪、恐山などの霊場。今でいうパワースポットばかりだ。ただし、霊場を訪れているからといって、聖なる話だけが続くわけではない。俗で性的な話も含まれている。

これ以上の詳細は別の機会にしたい。が、ポイントとなるのは「追い出された」ことだ。『同時代ゲーム』とは異なり、もはや主人公たちは故郷に帰れない。まさに村が「帰れないもの」として認識されていく過程を、体感として表現している。

村上春樹『海辺のカフカ』

カフカくんも、ナカタさんも、東京の人だ。2人とも中野区に住んでいる。

この小説では、田辺カフカの話とナカタサトルの話とが、並行的に展開されていく。両者とも不穏な事件があったために、東京を出て四国の森へと向かうことになる。どちらも都市から森へと向かうのだ。外から村の方へと入るしかない。その構図は注目に値するように感じた。

今日はこれで終わりとしたい。


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