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三島由紀夫『豊饒の海』について

今年こそは三島由紀夫『豊饒ほうじょううみ』を読んでいきたい。そう思っていたのだが、このシリーズはとても長い。難しいというのが本音である。

しかし、可能な限りやってみることにした。週1, 2本のペースで投稿していく予定だ。基本的には『春の雪』から順番に扱っていくことになるだろう。

感想記事に関する注意

ただ、ひとつ注意点をご報告したい。『豊饒ほうじょうの海』を読了なさってから、記事をご覧になってくださると幸いだ。

順番に読むと申し上げたものの、文章の引用はなるべく自由にやっていきたい。たとえば『春の雪』の感想記事で、『奔馬』以降の文章を引用する場面が出てくるかもしれない。必然的にネタバレが生じる。よって、全編通読してから、記事をお読みになることを推奨したい。

引用に用いる本について

本来は全集から引用すべきだろうが、文庫本でご容赦いただきたい。

三島由紀夫『はるゆき』新潮文庫 第67刷
三島由紀夫『奔馬ほんば』新潮文庫 第51刷
三島由紀夫『あかつきてら』新潮文庫 第64刷
三島由紀夫『天人五衰てんにんのごすい』新潮文庫 第42刷

本文については上記の4冊から引用することにしたい。引用する際には、作品名とページ番号を記す。他の書誌情報は省略したい。

『春の雪』冒頭

注意書きを続けてもつまらない。早速、本題に入ろう。

 学校で日露戦没の話が出たとき、松枝まつがえ清顕きよあきは、もっとも親しい友だちの本多ほんだ繁邦しげくにに、そのときのことをよくおぼえているかときいてみたが、繁邦の記憶もあいまいで、提灯ちょうちん行列を見に門まで連れて出られたことを、かすかにおぼえているだけであった。あの戦争がおわった年、二人とも十一歳だったのであるから、もう少し鮮明におぼえていてもよさそうなものだ、と清顕は思った。

『春の雪』p.5 引用者太字

『豊饒の海』というシリーズ全体を通して重要な人物となるのが、本多ほんだ繁邦しげくにである。一方『春の雪』の中心人物は、松枝まつがえ清顕きよあきだ。

ポーツマス条約の調印によって日露戦争は終わった。1905年の9月のことである。2人はそのときに11歳だったとあるから、彼らの誕生年はおおよそ1896年(明治29年)だと推測される。

※簡単な引き算を間違えていました。大変申し訳ないです。1894年ですね。お詫びして訂正いたします。

まずは2人が生まれた1896年の周辺について、整理してみたい。

※当然ながら1894年について書いていきます。

2人の生まれた1894年について

1894年(明治27年)といえば、日清戦争(1894.7-1895.4)が勃発した年である。翌年の1895年に下関条約が締結され、終戦を迎える。

戦勝ムードに沸きつつも、仏独露の三国干渉に水を差され、欧州列強と自国との立場の違いを知る――言い回しは乱暴かもしれないが、当時の国民感情はそんなところであっただろう。

日本文学の作家から挙げれば、西脇順三郎(1/20)、葉山嘉樹(3/12)、江戸川乱歩(10/21)と2人は同い年。志賀直哉や武者小路実篤、谷崎潤一郎、芥川龍之介は2人の先輩であり、横光利一や川端康成、徳永直や宮本百合子は2人の後輩ということになる。

細かい年表については、下に記しておきたい。作家の生年について、2人の十年前後、取り出してみた。

1885:武者小路実篤、中勘助、北原白秋、若山牧水、尾崎放哉、飯田蛇笏
1886:谷崎潤一郎、萩原朔太郎、石川啄木、吉井勇
1887:葛西善三、山本有三、折口信夫
1888:里見弴、菊池寛、長与善郎
1889:内田百閒、岡本かの子、久保田万次郎、室生犀星、夢野久作
1890:杉田久女、日夏耿之介
1891:久米正雄、松岡譲、広津和郎、宇野浩二、直木三十五
1892:佐藤春夫、芥川龍之介、吉川英治、堀口大學、水原秋櫻子
1893
1894:葉山嘉樹、江戸川乱歩、西脇順三郎
1895
1896:牧野信一、宮沢賢治
1897:大佛次郎、海野十三、宇野千代
1898:横光利一、井伏鱒二
1899:川端康成、石川淳、徳永直、宮本百合子、壷井栄
1900:三好達治、西東三鬼、中村汀女、稲垣足穂、池谷信三郎
1901:梶井基次郎、村野四郎、中村草田男、山口誓子、岡潔
1902:中野重治、横溝正史、小林秀雄
1903:小林多喜二、島木健作、山本周五郎、林芙美子、草野心平、林房雄
1904:堀辰雄、永井龍男、丹羽文雄、佐多稲子、幸田文

こんなペースにはなるものの、ぜひ『豊饒の海』をゆっくりと読んでいきたい。

※登場人物の生年を誤解していた点について、お詫びして訂正いたします。

【追記】記事の続きができました!

三島由紀夫『春の雪』を読む【ネタバレ有】|水石鉄二|note
三島由紀夫『春の雪』の時代設定【ネタバレ有】|水石鉄二|note

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