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往復書簡:テラとTERAの音楽をめぐって①音楽家の役割と「伝統」音楽

by 田中教順、グリット・レカクン

互いに演奏家であり研究者でもある日本とタイ両バージョンの『TERA』の音楽家、田中教順とグリット・レカクンが、お互いの作曲や音楽観についてオンラインで書簡を交わしました。この記事では、全6通の往復書簡のうち最初の2通をご紹介します。

第一便:田中教順より

グリットさんへ

 今回「テラジア オンラインウィーク2021」に際しまして、『テラ』東京編と『テラ 京都編』で音楽を担当した自分と、タイ編『TERA เถระ』で音楽をご担当されたグリットさんとの間で音楽についてお話できるという素晴らしい機会を頂き、とてもありがたく思っています。この往復書簡を通じて、お互いの音楽のインスピレーションについてやり取りすることを楽しみにしています。

 『テラ』東京および京都編とタイ編との音楽的な大きな違いの一つは、使用した楽器にあると言えます。僕は日本版で、シンセサイザー、サンプラー、エフェクターを多用した電子音に打楽器を組み合わせました。一方、グリットさんはタイの伝統楽器による生演奏を主体としていましたね。グリットさんはタイの伝統音楽に精通されていますから、色々な伝統楽器を駆使した素晴らしい音世界を構築されていたと感じました。

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 僕は日本の伝統音楽については門外漢で、普段も西洋のドラムセットを演奏していますし、『テラ』日本版で使用している打楽器もアフリカやキューバの太鼓など、日本の伝統的な楽器は皆無で、木魚だけです。

 といったところで僕から2つ質問をさせてください。
(1) 『テラ』東京編は、どのように『TERA เถระ』の音楽制作に影響した、あるいはしませんでしたか。タイの伝統楽器と生演奏を使う音楽制作の方針はどのように決定されたのでしょうか。
(2) 劇中で実在のタイの伝統音楽は演奏されているのでしょうか。それとも全てグリットさん達の作曲によるものなのでしょうか?(実在のタイの伝統音楽があったのかどうか、僕には判断が付きませんでした。)

よろしくお願いします。

田中教順

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往復書簡.002

第二便:グリット・レカクンより

教順さんへ

 教順さんといっしょにTERAプロジェクトに参加できてうれしいです。タイ編『TERA เถระ』の音楽について質問していただき、ありがとうございます。

 一つ目の質問、『TERA เถระ』の音楽における『テラ』東京編の影響に関してですが、実際、いくつかの点で影響を受けたと思います。初めて『テラ』東京編のパフォーマンスの映像を見たときに、教順さんの音楽がただの音楽を超えたものになっていると感じたことを覚えています。音楽が、(稲継)美保さんのパフォーマンスの伴奏というだけでなく、物語の一人の登場人物になっているのです。ドラムセットとパーカッションを叩きながら、観客とあのような洗練された問答を行えるということにも驚きました。このことが、TERAにおける音楽家の役割について私に気づきをもたらしました。つまり、音楽家は伴奏者ではなく、ストーリーテラーでありパフォーマーであるべきだということです。なので、『TERA เถระ』の音楽はよりコミュニケーションの要素が強くなり、パフォーマンスの中心になっていきました。

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 二つ目の質問ですが、私たちのパフォーマンスの主題はタイの寺院と宗教に関するものなので、ラーンナー地方やタイ北部、インド、日本などの様々な土地への演者たちの旅を表現するために、タイの楽器をベースに、色々な文化圏の楽器(尺八やジェンベなど)をミックスしました。作品のいくつかの部分では、ストーリーにあわせて新たに音楽を作りました。ラーンナー文化やスーフィー文化の音楽や、瞑想に用いるワールドミュージックを模するために、タイの楽器を、ラーンナーやタイ、日本、インド、そしてペルシャの音階で演奏しました。

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 私にとって、音楽は目に見えないけれど心の奥底で感じられるものを表現できるものです。こうしたアプローチを念頭に、私たちがTERAで演奏した音楽は、この世の現実を見るために皆さんを世界中の様々な場所へ連れていく乗り物のようなものです。だから、私は『TERA เถระ』の音楽はタイだけの音楽ではなく、全ての人のための音楽だと思っています。

グリット・レカクン

(翻訳:澤島さくら)

田中教順の質問から、TERAにおける音楽(家)の役割や、タイの伝統楽器を用いながら世界の様々な地域の音を表現したというグリット・レカクンの意図が明らかになった一往復目。次の第三便・第四便では、それぞれが考える音楽と仏教の関係に迫ります。

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関連プログラム

田中教順とグリット・レカクンがそれぞれ音楽を担当した『テラ 京都編』と『TERA เถระ』の公演映像は、2021年11月19日(金)~12月26日(日)まで配信中。詳細・チケット情報はこちらのぺージをご覧ください。
※チケット販売は12月12日(日)まで

筆者プロフィール

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田中教順
1983年生まれ。ドラマー・パーカッショニスト/作曲家。東京藝術大学在学中より演奏活動を行う。ジャズミュージシャン菊地成孔主宰のdCprG等で活動後、博士号を取得(学術)し、現在「抱きたいリズム」をモットーに世界を旅するリズム大好き大学職員。自身のユニット「未同定」やラテン・ジャズバンド「Septeto Bunga Tropis」などで演奏活動を行っている。近年はミャンマーの打楽器を主体とした伝統音楽「サインワイン」の研究・習得をミャンマーの国立文化芸術大学にて行っている。ミャンマー音楽の研究で令和2年度科研費若手研究にも採択。坂田ゆかり演出作品への参加は「テラ」(2018)が初。2019年には本作でチュニジア公演も経験。

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グリット・レカクン
バンコクのマヒドン大学音楽学部卒業後、ロンドン大学SOASで博士課程(民族音楽学)を修了。SOAS音楽学部でタイの伝統音楽を教えたのち、現在はチェンマイ大学芸術学部の音楽講師を務める。専門はタイの木管楽器。実験的な音楽に関心があり、2003年からタイの伝統音楽と現代音楽のバンドKorphaiのメンバーとして活動。2004年にはタイの伝統音楽映画「Home
Rong」のサウンドトラックを担当。2012年にはASEAN・韓国伝統音楽オーケストラと共演し、2019年には現代舞踊劇「Mahajanaka Dance
Drama」英国ツアーで演奏した。



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