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「次世代へつなげていく想い」               逆井卓也さん

こんにちは!
今回は数学の研究者である、逆井卓也さんにお話を伺ってみました。逆井さんから合氣道への想いや魅力をお伝えします。

逆井卓也(さかさい たくや)
1978年生まれ、東京都出身。天通合氣道参段。
東京大学大学院の教員として数学の研究と教育に従事。
大学在学中に天通合氣道に出会い、現在湯島教室所属。
卒業後は研究の道に進むために進学、しばらく合氣道からは離れていたが、
2012 年に現職へ異動する際に縁あって稽古を再開。
最近の趣味は国内旅行と演劇鑑賞。

合氣道を始めたきっかけ

ー 大学で合氣道に出会う

数学が好きで、いずれは数学を使う職に就きたいという想いで大学に入学しました。
大学では新しいことを始めたいと考えていて、武道は自分の中の新展開として有力候補でした。新歓の際に、当時の先輩に勢いよく引っ張られたのが合氣道との最初の出会いです。稽古を見学し、先輩方の生き生きとした姿を見たり、まったく知らない技や動きを体験したりして興味をもち、入会を決めました。
入会してからは、先輩方が楽しく丁寧に教えてくださり、また、道長師範の定期的な稽古もあって、充実した環境で活動ができました。同期や後輩も20人以上いましたので大所帯で。合宿など厳しい稽古もありましたが、仲間とともにそれらを乗り越えていく、そういったことも楽しかったですね!

 ー 再開のきっかけ

学部のときに印象的な幾何学の講義があり、研究者としての数学の道を意識し始めました。大学院に進み、その講義をした先生の研究室に入りました。師匠や先輩に支えられながら勉強を進め、その間も一般教室で稽古を続けていましたが、2年目になり、いよいよ研究に集中しなければならなくなって稽古から離れました。数年後、大学院の教員として落ち着いてきた頃に、サークルの先輩でもあった湯島教室の師範を偶然に駅構内で見かけ、話をしたことがきっかけとなって稽古を再開しました。7・8年ほどの空白期間中に稽古内容が深化していて衝撃もありましたが、やっぱり面白いと感じました。教室のメンバーとの出会いは、私にとって大切なものです。


日常生活のなかで

ー 自分と仕事と合氣道

文武両道って言葉がありますが、身体を動かすことと考えることって表裏一体だなと思います。合氣道は身体だけではなく頭も使うし、数学の研究も膨大な議論や計算に挑まないといけない時があります。それらのバランスをとりながら日々活動しています。
1つのことに集中(執着)し過ぎると視野は狭くなりがちです。そうなると却って行動が制限され、研究の価値や応用の可能性を見誤ってしまうことがあります。
近年、社会からの数学への期待は増しており、学生には、研究者の道に限らず広い視野で自身の可能性を活かしていってほしい、と伝えています。

ー 合氣道と数学

数学(科学)で合氣道を含む身体の動きがすべて把握できるとは思いません。できないからこそ、稽古を重ねて良い動きができたときにそれが喜びとなります。それでも合氣道と数学で似たものを感じたとき、動き易いと思うことがあります。
たとえば、合氣道では力の使い方において、一箇所だけでなく、全体の流れを意識します。これは、ある1点からのベクトルというより、ベクトル場というあらゆる場所でのベクトルを同時に考え、それを動かすことに対応しています。どちらも全体の繋がりや流れを重視する視点ですね。そう考えて動くと、動き方に親近感のようなものを感じて、不思議とうまくいくことがあるんです。
私の専門分野は位相幾何学で、無限遠の捉え方や次元ごとの図形の性質などとも繋がりがありそうだと思っていますが、もちろん、こういったことを常に考えて動いているわけではありません(笑)


今後の展望

ー 今後の目標と抱負

技や武器の素振りなど、補助を交えて教えてもらうと実感とともに上手くできるのですが、それを自分で再現しようとするとなかなか難しいんですね。それらを自分で納得して行えるものにしていきたいです。そして、納得してできたことを後人へ伝えていければと思っています。
また、数学の側でも後人の役に立つような研究をしていきたいと思っています。それと並行して自分が10年以上追い続けている問題がありまして…、研究者を続けているうちに解明したいですね!

ー 数学的な思考から

与えられた仮定から導かれることを考える、それを繰り返すことが数学の基本的姿勢です。
それには「自分で自分の展開している議論が正しいかどうか分かる」という力が求められます。難しいことですが、やっぱり自分で自分を評価できるという状態までもっていくことが必要だなって思います。
いい加減な論理を振りかざしていれば、それは数学だったらどこかで矛盾が起きてしまうし、人間関係だったら信頼関係に関わってくる。自身の客観視って大切ですね。

ー 算数や数学に頑張って取り組んでいる子どもたちへ

数学の議論って、某教育番組のボールが動いていく装置に近いんですよね。何かを動かすと、ここに橋ができて通れるようになって…、という感じです。そういった仕掛けを楽しむ感覚が持てると数学がどんどん楽しくなるかなって思います。
学校の授業では公式暗記や計算が多かったりしますが、それらは合氣道で基本動作を身につけることと似ています。とても大切で欠かすことはできませんが、使ってみる機会がないとアンバランスです。
パズルとかゲームとかでも良いと思いますが、頑張れば分かりそうな問題を見つけて、じっくり考えて(解いて)みるという経験ができると良いと思います。そうすれば、身の回りがもっともっと面白くなるはずです!



取材日:令和6年5月24日
記事:天通合氣道取材班


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