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『池袋ウェストゲートパーク(著:石田衣良)』〜大人向けの『少年探偵団』としての『池袋ウェストゲートパーク』

【内容】
池袋西口公園近くの果物屋の息子のマコトは、“池袋のトラブルシューター”とも呼ばれ、依頼された難事件を次々と解決ていく。


【感想】
出版当時、この本は話題になっていて、近隣に住んでいた自分にとっては、描かれている池袋の世界観が現実とは大きくかけ離れているように感じました。書店で平積みされていた本を手に取ったものの、「これはないな」と思って本を戻した記憶があります。
西口公園を『ウェストゲートパーク』と呼んだり、文中に出てくる『ボーイズ&ガールズ』などの描写が、どうにも胡散臭く、リアリティに欠けていると感じ、当時は読む気になれませんでした。
四半世紀前の池袋は、埼玉や練馬、板橋から電車でやってくる乗降客の終着駅として、渋谷や新宿に比べて、よくいえばかなり牧歌的なイメージがありました。風俗店が立ち並ぶ北口や、人通りが少なくなりつつあったサンシャイン周辺もありましたが、極端に描かれすぎている印象です。むしろ、魔夜峰央が『翔んで埼玉』で描いた池袋のイメージの方が近い気がしました。
あと、著者が登場する若者たちをどこか見下しているような描写の仕方をしていて、そういう面でも当時は自分の感覚に合わないなと感じていました。

そうは言いつつも、実はこの小説の最初のエピソードだけは読んだことがあり、今回改めて読み直してみて、どこか「今流行りの転生ものっぽいな」と感じました。まるでイケてる筆者が、池袋の商業高校出身の青年に転生して無双するかのような印象を受けました。

宮藤官九郎が脚本を手掛けたドラマ版も話題になり、後追いで一気に観たのですが、なかなか面白い作品だと思いました。小説もドラマも、架空の池袋を舞台に物語を構築しているという印象です。特に、ドラマでは宮藤官九郎自身が池袋から3駅離れた江古田の日芸出身ということもあり、池袋をネタ的に扱っているように感じました。

そんなことを考えながら久しぶりにこの小説を通して読んでみると、よくできた作品だなと改めて思いました。おそらく、ニューヨークのハーレムのような貧しい若者の物語を日本でやるとしたとき、池袋という地域を選んで世界観を構築したのだろうと感じました。同時に、この30年で大きく変貌を遂げた池袋をこの形で切り取った点も、面白い試みだったと思います。

それから、今はなき池袋西口の丸井や、懐かしい風景が描かれていて、こうした小説を時を経て再び読む面白さを感じました。また、この作品が著者の小説デビュー作ということもあり、文章には達者ながらも若々しさが感じられ、そこも魅力の一つだと思いました。

ふと、ここまで書いていて、これって当時の池袋を舞台に19才の青年を主人公とした大人のための『少年探偵団』だったんじゃないかという気がしてきました。
ドラック、殺人、セックスありで…
そういえば、主人公のマコトの暮らす果物屋から、『少年探偵団』を書いた江戸川乱歩が住んでいた家は、歩いて10分ほどのところにあったりもすることに今、思い至りました。

https://www.bunshun.co.jp/pick-up/iwgp/

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