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映画「パーフェクト・ワールド」私の父が劇場で涙した亡き父への想い。

あの頃、ケビン・コスナーはとてつもなく渋く、かっこよかった。

「パーフェクト・ワールド」映画レビュー
私の父が劇場で涙した亡き父への想い。

あの頃、ケビン・コスナーはとてつもなく渋く、かっこよかった。

アンタッチャブル、ボディガード、JFK、ダンスウィズウルヴズ、フィールド・オブ・ドリームス、そして、パーフェクト・ワールド。

クリント・イーストウッド監督の地に足のついた演出で、クライマックスにじわっと込み上げる人間ドラマだと思う。

ケビン・コスナー扮するブッチは10代のころ、ささいな犯罪から刑務所に入れられ、長い時を過ごしていた。両親の愛情の記憶も無く、ポケットには父親が唯一アラスカから送ってくれたハガキ一枚がボロボロになって入っている。

そんな彼が絶望から逃げ出すように、刑務所を脱獄して、ある少年を人質に逃走する。でも、その少年もまた稀薄な愛情のもとで生きていた。少年がそんなに彼を怖がらない。どうしても逃げたいという感じでもない。少年の目には単なる凶暴な犯罪者という周囲の大人のような先入観は無かったのかもしれない。

愛というものを知らないブッチも段々と父性のような気持ちが湧いてくる。父の愛情に飢えて育ったブッチと、父親のいない少年の逃避行が危うくも切ない。

そんな中、警察署長のイーストウッドは彼を追いかけつつも、自身が昔、彼を劣悪な家庭環境から遠ざけるために、あえて刑を重くしたことが裏目に出たと後悔と贖罪の気持ちを持っている。

そんな因縁の2人もまるで父と息子のように見える。その二人が追い、追われ、そしてラストに向かっていく。

気が短く凶暴性を抱えるものの、その奥底にピュアに愛情を求める人間性を垣間見せてくれたケビン・コスナーの存在感と目が素晴らしい。

そしてパーフェクト・ワールドというタイトルがこの物語のせつなさを際立たせていると思う。

もしこの世界が、パーフェクト・ワールドだったら、、犯罪も刑務所も彼が人質を取ることも無かったかもしれない。

物語の後半、ふと童心に帰った彼が嬉しそうに踊るシーン。彼の心のパーフェクト・ワールドな瞬間だったのかもしれない。

クライマックス、真っ青な空と照りつける太陽の中、草原でやっと対峙する2人。

ラストは予測していたものの、あまりに切なくて、涙が溢れ出した。

当時、劇場で観たのは父親に薦められたから。

その時、父は単身赴任をしていてあまり会えなかった。久しぶりに家に帰ってきた時に、普段映画をあまり観ない父が劇場で泣いたといっていた。

父は太平洋戦争で自分の父(私の祖父)を5歳で亡くしている。軍服の祖父が父を膝に抱いた薄ぼけた白黒写真を見せてもらったことがある。でも、よく覚えていないという。

父に私はどことなく距離感を感じていたが、父親の記憶がほとんど無い父なりの、息子との関わりの難しさがあったのでは、と大人になると感じる。

そんな父の心を捉えたのは、父の愛に焦がれるブッチ(ケビン・コスナー)と少年の心の疼きが刺さったのではないか、と思っている。

心の奥底で愛を叫んでいる人にとっては、痛切に感受してしまう映画なのかもしれない。

でもきっと、生きる全ての人は、皆、奥底で愛を叫んでいるのではないだろうか。

深いところで心が揺さぶられる名作だ。

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