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【連載】「灰かぶりの猫の大あくび」1

登場人物

灰かぶりの猫
久しぶりに小説を書き始めた、岩手県出身の30代。
(詳しくはプロフィールの通り)

黄昏たそがれ新聞の夏目 
新米記者。アニメ好き。最近の推しは、『呪術廻戦』の五条悟。

(以下、灰かぶりの猫=猫、夏目=夏目と表記)

※各固有名詞にリンクを追加。


2月22日 午後2時 岩手県某所。

――ピンポン(夏目がインターホンを押す)

猫  「はい、どちらさまですか?」

夏目 「黄昏新聞の夏目と申します」

猫  「何か御用ですか?」

夏目 「アポもなく、突然お邪魔してすみません。今日は2月22日の『猫の日』と言うことで、ぜひ灰かぶりの猫さんに、執筆活動などについて取材させていただけないかと思いまして」

猫  「(ゴホンと一つ咳ばらいを挟み)えー、夏目さん、でしたか。もしかして取材相手を間違えてませんか。僕は、ポー黒猫でも、吾輩の猫でも、ニャンコ先生でもなく、ただの無名の猫ですよ」

夏目 「そんなこと、ありませんよ。いや、あるか……。あ、ごめんなさい。聞こえました?」

猫  「猫の聴力をなめたらダメだよ」

夏目 「申し訳ありません」

猫  「まあ、分かったよ。無名でも良いという条件を呑むなら、どうぞ中へお入りください」

夏目 「やったぁ!(感情を爆発させるように、その場で飛び上がる) あ、すみません、つい」

猫  「どうやら、それが君のキャラクターみたいだから、僕は構わないよ。物語にとって、個性的なキャラクターはとても大切だからね」

夏目 「あ、何か、プロっぽい発言ですね」

猫  「これくらいのこと、誰でも言えるよ」

夏目 「それじゃあ、お邪魔します」

――ガチャリ。バタン(玄関を閉め、靴を脱ぐ)。

――パタパタパタパタ(スリッパで廊下を歩く)。

夏目 「あ、二足歩行なんですね」

猫  「お客を迎える時くらいはね。さ、ここが、書斎だよ」

――ギイー、バタン(書斎に入る)。

夏目 「失礼します。へえ、やっぱり本が多いですね」

猫  「そうでもないよ。これでも少ない方だと思う」

夏目 「あ、あそこ、座ってみても良いですか?」

猫  「そこは僕の特等席なんだけど、まあ、いいか」

――ギシギシ(夏目がソファーにゆったりと背中を預ける)。

夏目 「これ、とっても座り心地がいいですね。本革ですし、高かったんじゃないですか?」

猫  「ありもしないソファーに、座らないでくれないかな。ここにあるのは、何の変哲もない机と椅子だけだよ」

夏目 「失礼しました。文豪気分を味わってみたくて」

猫  「文豪は文机ふづくえじゃないか?」

夏目 「では気を取り直して、早速、お話を聞かせて下さい。まず、お名前から」

猫  「名前は、灰かぶりの猫。灰かぶりっていうは、シンデレラの和名だね。特にあやかったわけではないけど、いつかシンデレラみたいに、輝ける舞台に立てたらって思いはあるかな」

夏目 「舞踏会ですか? すごいですね」

猫  「君は、本気で言っているのか、冗談で言っているのか、分からないキャラクターだね」

夏目 「よく言われます」

猫  「それから、猫はまあ、動物の中で一番好きだから、もし生まれ変わるなら、猫にとね」

夏目 「え? 今は猫じゃなかったんですか」

猫  「あ、しまった。今のはナシだ。記事には書かないでくれよ」(夏目取り消し)

夏目 「でも、猫いいですよね。わたしも好きです」

猫  「ありがとう」

夏目 「次の質問ですが、いつから小説を書き始めたんですか?」

猫  「うーん。覚えている限りでは、10代の後半かな」

夏目 「それなら、20年くらいは書いてるんですね」

猫  「いや、書いたり書かなかったりだから、歴はそんなにだよ」

夏目 「どうして書かなかったんですか」

猫  「熱量かな。小説が読めなくなった時もあったし。それこそ、小説から遠く離れた時期も」

夏目 「加藤典洋さんの『テクストから遠く離れて』ですね」

猫  「そんな格好の良いもんじゃないよ」

夏目 「そういえば、昨日のあとがきで、今、新作に取り組んでますって書いてたの読んだんですけど、どんなお話なんですか?」

猫  「君はズケズケ聞くね」

夏目 「ズケズケ? お漬物の親戚ですか?」

猫  「(やれやれと首を振り)まあ、そういうことにしておくよ。でも、ここで話したら、ネタバレにならないかな」

夏目 「そこをなんとか(猫のように手を合わせて拝む)」

猫  「仕方ないな。特別だよ。えーと、少しだけ、誰もが知る昔話が絡んでくる」

夏目 「へー。グリム童話とかですか?」

猫  「まあ、そんな感じだね」

夏目 「なるほど。ちなみに、小説のアイデアはどうやって考えているんですか?」

猫  「うーん。難しい質問だね。〝ひらめき〟って言うのが、自分の感覚として近いけれど、それでは答えにならないだろうし」

夏目 「おお。ユーレカ! ですか」

猫  「誰かが稲垣足穂について書いた文章だった気がするんだが、ひらめきとは、ニュートリノのような素粒子が身体を通過した時に起こる現象だとも、考えられているようだね」

夏目 「『千夜一夜物語』の人でしたっけ?」

猫  「惜しい。『一千一秒物語』だよ。未読だが」

夏目 「面白そうなタイトルですね。今度、本屋で探してみます(急にそわそわし出す)」

猫  「どうかしたのかい?」

夏目 「あ、すみません。あの、お手洗いお借りしてもいいですか」

猫  「早く言いたまえ。ここを出て右だよ。間違えて他の部屋に入らないように」

夏目 「はーい(手を上げて返事をし、部屋を出ていく)」

猫  「ふー(大きくため息を吐く)。やれやれ。最近の若者はこれだから……」

                               つづく

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