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新しい感染症の出現で注目される「在宅医療」とは?③

在宅医療チームを支える多職種と主な役割

在宅医療では、医療・介護の多職種のスタッフが連携し、要介護の人の生活を支えます。
病院では、医師が治療方針を決めてリードしていく形になりますが、在宅医療では、医師よりも患者さんや家族と接する時間が長い訪問看護師やヘルパーも、とても重要な役割を担っています。多職種の専門家が1つの「チーム」となって、日々細やかに情報共有をしながら在宅療養を進めていきます。
関わる職種は地域や医療機関によっても異なりますが、主な職種と役割を簡単に紹介しておきます。

・医師(在宅医)
患者さんと家族の意向・要望をふまえ、在宅での医療面の方針を決めるのが医師の役割です。定期訪問診療や臨時の往診を行い、診察や治療、薬の処方などを行います。がんの治療中の患者さんでは、病院の医師が主治医、在宅医が副主治医となり、役割分担をしながら在宅療養をサポートするケースもあります。

・看護師(訪問看護師)
医師と連絡を取り合いながら、要介護の人の日常生活の看護から、経管養・緩和ケアなどの医療処置、介護をする家族への生活相談などを行います。医療と看護・介護の両面から、患者さんと家族を支えてくれる在宅療養には欠かせない存在です。

・医療ソーシャルワーカー(医療連携室)
患者さんと家族を在宅医療につなぐ橋渡しをするのが、医療ソーシャルワーカーです(当院では医療連携室がこれに相当)。在宅医療を希望する利用者の相談を受けるほか、病院の退院時カンファレンスに同行したり、在宅療養の環境整備を支援することもあります。

・薬剤師、栄養士
医師が処方する薬を届けるほか、薬の管理や適正使用についてみていく“薬の専門家”が薬剤師です。療養している患者さんの食事・栄養摂取についてアドバイスなどを行う“食事・栄養の専門家”が栄養士(管理栄養士)になります。

・理学療法士、作業療法士、言語聴覚士
いずれもリハビリテーションの専門職です。理学療法士(PT)は寝返りをうつ、座る、立つ、歩くといった基本動作の機能回復を指導します。作業療法士(OT)はトイレや着替え、食事などの作業動作を支援します。言語聴覚士(ST)は聞く、話すなどのコミュニケーション領域や摂食・嚥下の機能改善を支えます。

・歯科医師、歯科衛生士
歯や歯茎、口の中の健康について診察や治療、指導を行うのが歯科医師や歯科衛生士です。虫歯が多い、入れ歯が合わないなどで食物をよく噛めないと、全身の栄養状態にも影響します。また口の中の衛生状態が悪いと誤嚥
性肺炎を起こすリスクが高くなります。

・ケアマネジャー
介護保険サービス全般の知識をもち、介護分野のまとめ役といえるのが、ケアマネジャーです。要介護度や本人・家族の要望などをふまえ、介護保険サービス利用の全体的な計画=ケアプランを作成します。在宅療養をする際の住宅改修や介護ベッドなどの福祉用具レンタルも、ケアマネジャーが窓口となって行います。

・ホームヘルパー(訪問介護員)
日常生活の手助けをしてくれるのが、ホームヘルパーです。30分、45 分、1 時間などの単位で自宅を訪問し、買い物や料理などの生活援助、食事介助などの身体介護を行います。


在宅医療を利用するときの流れと費用の目安

<在宅医療の利用の流れ>
在宅医療を行う医療機関を知りたいときは、住んでいる市町村の地域包括支援センターや介護サービス事業所などで相談をしましょう。ほかに地域のクリニックのホームページなどを確認し、直接、医療機関に問い合わせをする方法もあります。
通院・入院をしている人は、治療を受けている医療機関の相談窓口で在宅医療の希望を伝えると、紹介してもらえることがあります。
なお、在宅医療を始めるにあたり、まだ介護保険申請をしていない人は、自治体の地域包括支援センターや介護保険の窓口で申請をしてください。要介護度の認定が出るまでには1、2カ月ほどかかります。申請と同時に、担当のケアマネジャーも選定します。
すでに要介護(要支援)認定を受けている人はケアマネジャーと相談しながら、在宅療養に必要な準備を整えていきます。

<在宅医療の費用の目安>
在宅医療にかかる費用は「医療費」と「介護保険サービス費」の2つです。年齢や収入などによって自己負担額は変わりますが、基本的なしくみは以下のようになっています。
・医療費の自己負担額= 1 ~ 3 割
・介護保険サービスの自己負担額= 1 ~ 3 割

実際の費用は、医療・介護の内容によって変わりますが、医療や介護の費用が高額になった場合、限度額を超えた分が払い戻される
制度もあります。こうした制度も利用すれば、費用負担を抑えなが
ら、在宅療養を続けることができます。


在宅を迷っているなら、その気持ちも含めて相談を

これまで在宅医療の概要から、在宅で受けられる医療・サービス、在宅医療に関わる多職種、利用の流れなどについてざっと説明をしてきました。在宅医療について、少しはイメージが具体的になったでしょうか。
患者さんや要介護の本人、介護を担うご家族に知ってほしい在宅医療の基礎的な情報については、私の前著『1 時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』にも詳しく掲載しています。併せて参考にしていただけたら幸いです。
ただ、在宅医療の実際やリアルな介護生活について、文字だけでお伝えするのはなかなか難しいのも事実です。
「在宅医療の基本的なことはわかったけれど、自分たち家族に本当にできるのか」と不安を感じ、最初の一歩を踏み出せないという方も少なくないかもしれません。
そういう方は、まず悩んでいるという気持ちも含めて、在宅医療を行うクリニックに相談をしてほしいと思います。
私たちは在宅医療を始める前の段階から、患者さんとご家族のサポートに取り組んでいます。不安や課題を1つずつクリアして、在宅療養に踏み出した方々からは「最初は不安だったけれど、やってみたら意外にできた」「もっと早く在宅にすれば良かった」という感想をいつもお聞きしています。

そして在宅療養をスタートした方には、住み慣れた自宅で少しでも長く暮らしていただけるよう、多職種のスタッフが支援をします。
在宅で療養している間には、さまざまなことがあります。時間の経過とともに、高齢者や要介護の人の状態は変わっていきますし、急な体調変化で慌てたり、家族も介護に疲れてしまったりすることがあるかもしれません。特に人生の終わりが近づく段階では、迷わずにいられるご家族はいないのではないでしょうか。
しかし、その時々の本人やご家族の不安・葛藤に寄り添い、一緒に悩みながら解決策を考えていく─。それこそが病院医療にはない、在宅医療の重要な役割だと私は思っています。
そうした在宅での生活を経て、大切なご家族を見送った方々は、皆さん口をそろえて「在宅で看取ることができて、本当に良かった」と心からの笑顔で話してくださいます。

このような在宅医療の真の魅力を知っていただくためにも、次のパートからは在宅医療の導入期から看取り期まで、さまざまなシーンの事例を取り上げ、そこでの在宅チームの関わりや支援について紹介していきたいと思います。

在宅医療でも活用が増えそうな「オンライン診療」
新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅医療の現場
にも導入されるようになったのが「オンライン診療」です。オンライン診療とは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの通信機器を使って、医師が離れた場所にいながら患者さんの診療を行うものです。医師として
は、直接患者さんに接して聴診や触診をし、検査などを行って多くの情報源からその人の状態を総合的に判断したいところです。ただし、患者さんの希望やそのほかの状況により、感染リスクを避けなければならないときは
、オンライン診療
も1 つの選択肢になります。
当院では、今のところ、オンライン診療を行えるのは、これまでに医師の診察を受けたことがある人に限っています。体調が安定している人であれば、テレビ電話や電話でも薬の処方などを行えます。ただオンライン診療で
は医学的な診断が難しいこともあるため、来院をお願いすることもあります。採血やレントゲンなどの検査、医療用麻酔、精神薬の処方などは、オンラインでは行えません。
最近では、自宅にいる患者さんの脈拍などの数値が24
時間自動で計測され、オンラインで医師に届くといった医療機器も開発されています。こうした技術が進化すると、オンライン診療でできることもさらに増えていくかもしれません。


【Column】在宅医療でも活用が増えそうな「オンライン診療」

新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅医療の現場にも導入されるようになったのが「オンライン診療」です。オンライン診療とは、パソコンやスマートフォン、タブレットなどの通信機器を使って、医師が離れた場所にいながら患者さんの診療を行うものです。医師としては、直接患者さんに接して聴診や触診をし、検査などを行って多くの情報源からその人の状態を総合的に判断したいところです。ただし、患者さんの希望やそのほかの状況により、感染リスクを避けなければならないときは、オンライン診療も1 つの選択肢になります。
当院では、今のところ、オンライン診療を行えるのは、これまでに医師の診察を受けたことがある人に限っています。体調が安定している人であれば、テレビ電話や電話でも薬の処方などを行えます。ただオンライン診療では医学的な診断が難しいこともあるため、来院をお願いすることもあります。採血やレントゲンなどの検査、医療用麻酔、精神薬の処方などは、オンラインでは行えません。
最近では、自宅にいる患者さんの脈拍などの数値が24時間自動で計測され、オンラインで医師に届くといった医療機器も開発されています。こうした技術が進化すると、オンライン診療でできることもさらに増えていくかもしれません。


引用:
『事例でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2021年6月1日
出版社:幻冬舎