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在宅医療についての素朴な疑問Q&A

【Q】良い在宅医の探し方を教えてください

【A】病院や地域相談窓口のほか、インターネットや口コミも情報源

在宅医を探す方法としては、大きく以下の4つが挙げられます。
①入院先の医療相談室のソーシャルワーカーに相談する。
②以下のような、地域の相談窓口で相談する。
・市区町村の介護保険窓口
・地域包括支援センター
・訪問看護ステーション
・在宅介護支援センター
・保健所、医師会など
③インターネットや口コミ情報で在宅医療クリニック(在宅療養支援診療所)を探して、直接連絡をする。日本在宅医学会でも、全国の在宅医療専門医の情報を提供している。
④かかりつけの開業医に、訪問診療をお願いできないか相談する、あるいは知り合いの在宅医を紹介してもらえないか聞いてみる。

 こういった方法で探し、これはという医師が見つかったら、電話を入れたうえで相談しましょう。在宅医療においては医師と患者さん、ご家族との信頼関係がとても重要なので、話をしてみて方針や相性が合わないと感じたときは、また別の医師を探しましょう。


【Q】在宅医療の診療エリアとは?

【A】原則はクリニックから「半径16km圏内」。詳しいことはクリニックに相談を

 訪問診療を行うエリアは原則として、クリニックから半径16km圏内という規定があります。地域差はありますが、おおむね車で30分程度の距離と考えてください。ただし、この範囲で在宅医が見つからないときには、圏外のクリニックに訪問診療を依頼できる場合もあるので、詳しくはクリニックで相談してみてください。


【Q】「24時間対応」と聞きましたが、深夜や休日でも本当に医師に電話して大丈夫でしょうか?

【A】いつ電話をしてもらってもOKです

 在宅医療は24時間・365日対応が基本ですが、患者さんやご家族は深夜や早朝に体調不良に気づいても「こんな時間にお医者さんに連絡するのは悪い」と考えて、連絡しないケースが少なくありません。
 けれども、医師に遠慮していて患者さんの状態が悪くなってしまったのでは本末転倒です。何か心配なことがあるときは、夜間や休日でもためらわずに、医師に連絡をしてください。


【Q】訪問診療を受けるときは、家族も家にいなければならない?

【A】必ずいなければならないわけではありません

 訪問診療の時に毎回、必ず家族がいなければならない、ということはありません。ご家族にお伝えしたいことがあるときは別途、医師や看護師から電話で連絡することも可能です。
 ただ、訪問診療の時間は医師と対面で話ができる機会でもあるので、可能であれば同席し、情報交換することをおすすめします。


【Q】在宅医療をしながら、他の病院へ通院してもいい?その場合、薬はどちらに処方してもらう?

【A】在宅と病院の「併用」は問題なし。一般的な薬は、在宅医に処方してもらうといい

 本書でも何度か触れましたが、在宅医療をしながら、他の病院や開業医へ通院するのはまったく問題ありません。むしろ病院の医師、地域の開業医、在宅医が連携して、高齢者の生活を支えていくことを国も推奨しています。
 複数の意思にかかる際の薬は、降圧剤や整腸剤などの高齢者によく使用される一般的な薬は在宅医に処方してもらい、つい院先で行う治療の薬は通院先でもらえるようにすると、薬の重複が避けられます。


【Q】在宅医療の費用を払っていけるのか心配です

【A】費用が高額になったときの補助制度もあります

 在宅医療の費用は、基本的には保険診療の範囲ですから、自己負担額は1割(または3割)です。患者さんの状態によって医療費は変わるので一概にはいえませんが、在宅医療の医療費や介護費が高額になったときには、上限を超えた分を払い戻してもらえる「高額療養費」などの制度があります。心配なときは、クリニックやケアマネージャー、自治体の窓口で相談してください。


【Q】高齢者の食べやすい食事を、毎日は作れません

【A】レトルト製品や食事の宅配、ホームヘルパーによる調理などを活用して

 高齢者や要介護の人の食事は、塩分やカロリーの制限があったり、飲み込みやすいようにとろみをつける、細かく刻むなど、通常の食事以上に手間がかかったりします。介護する人の負担が大きいというときは、レトルトの介護食や宅配などもうまく活用してください。ケアプランによっては、ご家族に代わってホームヘルパーが食事の用意をすることもできます。


【Q】高齢の夫が妻を介護。下の世話など、とてもできる気がしません

【A】簡単な指導で、排泄ケアができるようになる人も多くいます

 介護者が男性の場合、介護全般をどうしていいかわからない、と感じるケースも少なくないようです。特に排泄ケアはハードルが高いと感じがちです。しかし、最初は難しいと思っていたおむつ交換も、看護師から方法を教えてもらうと、意外と簡単にできるようになるケースも多々あります。患者さんもご家族も気持ちよく過ごすために、できれば挑戦してみてほしいと思います。


【Q】入浴を嫌がることが増えて、困っています

【A】施設で入浴をするなど、環境を変えるのも手。身体を拭く「清拭」の方法も知っておこう

 もともと高齢になって身体が不自由になると、頻繁な入浴は難しくなります。入浴できないときは、温かいタオルで体を拭く「清拭」で、清潔を保ちましょう。また特に認知症が始まった人は、入浴を嫌がることがよくあります。無理強いをするとますます入浴が嫌いになるので、デイサービス施設で入れてもらうなどの方法も検討しましょう。


【Q】口臭や、排泄物の臭いが気になります

【A】訪問歯科や訪問看護師にケアの仕方を聞く

 唾液には、口腔内の菌の繁殖を抑え、汚れを洗い流す働きがあります。高齢者は唾液の分泌量が減っているため、細菌が繁殖しやすく、口臭も強くなりがちです。口の中が汚れていると誤嚥性肺炎の鯨飲にもなるので、定期的に訪問歯科で口腔ケアを受けると同時に、家庭での口腔ケアも教えてもらっておくといいでしょう。
 排泄物の臭いについては、ポータブルトイレや使用済みおむつ入れは防臭効果の高いものを選ぶ、消臭剤を使うなど、いくつか方法があるので、看護師やケアマネージャーに相談してください。


【Q】高齢者が介護ベッドから転落してしまいました

【A】転倒・転落などが起きたときは、クリニックへ連絡を

 ほぼ寝たきりの高齢者が、着替えや体位交換、車椅子以上などのときに、誤ってベッドや車椅子から落ちてしまった、というときは、すぐに在宅医療クリニックに連絡をしてください。特に、高齢者が大柄な男性で介護するのが女性一人という場合などは、一人でムリに身体を動かそうとして腰などを痛めても困ります。頭の下にタオルを敷き、床で身体が冷えないように毛布などをかけて、在宅医療スタッフの到着を待ちましょう。


【Q】不眠があり、夜中に動き回るので、家族が参っています

【A】生活改善や薬の使用などを検討しましょう

 在宅療養をしている高齢者の場合は、夜間にたびたびトイレに起きる、不眠などの睡眠障害がある、という人が多くなります。昼夜逆転の生活で夜中や早朝に徘徊をしたり大きな声を出したり、となると、介護をするご家族も休むことができず、疲労が取れません。
 こうした夜間の問題行動への対策としては、デイサービスで日中を活動的に過ごす、頻尿や不眠の薬物療法をするなど、いろいろと考えられます。ご家族の負担が大きくなりすぎないうちに、早めに医師や看護師に相談してください。
 また介護をするご家族も、寝付けない、早朝に目覚めて眠れない、倦怠感・疲労感が強い、気分がひどく落ち込む、といった症状があるときは、治療が必要な病気である可能性もあるので医師に伝えましょう。


【Q】看取りのことが不安。最期はどうすればいい?

【A】終末期は在宅の医師をはじめ、ケアマネージャーなどさまざまな方と連携をするため、不安に思うことはありません。慌てずに連絡しましょう

 在宅の場合「看取りが不安」という人は多くいますが、不安に思うことはありません。
 終末期には、最期の時に向けたさまざまな準備を、ご家族と一緒に話し合いながら進めていきます。不安に思うこともあると思いますが、異変を感じたら、慌てずにまず先生に連絡しましょう。
 連絡を受けた在宅医は現場に立ち会って診察し、ご家族と一緒に死亡確認を行います。
 そして、これまで闘病してきたお身体をきれいにするエンゼルケア(死後処置)を行います。最期に着せたい服などがあれば準備をしておき、可能であれば、ご家族の方も清拭や着替えなどを一緒に行ってあげてください。ご家族も一緒にすることで、「最後に自分たちでケアをしてあがられた」と死を受け入れるきっかけとなります。
 その後、医師からご家族に死亡診断書を渡します。決まっているようであれば、葬儀会社に連絡、手配をしてその日は終わりになります。
 大切な人を失ったご家族のケアも在宅医の大切な仕事です。私たちのクリニックでは、残されたご家族に「グリーフケア」を約2週間後に行うことで、悲しみから立ち直るサポートもしています。

引用:
『1時間でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2017年11月2日
出版社:幻冬舎