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新しい感染症の出現で注目される「在宅医療」とは?②

医療保険と介護保険、2つの制度で高齢者を支える

それでは次に、在宅医療を利用するときに知っておきたい制度や利用できる医療・サービス、利用方法などを解説します。在宅医療で受けられる医療・サービスは、大きく2つに分けられます。1つは医療保険(健康保険)による医療・看護です。そしてもう1つが介護保険による介護サービスです。

「医療」の部分は健康保険に加入している人であれば誰でも利用できます。一方「介護」のサービスを受けるには、介護保険申請をして要介護(要支援)の認定を受ける必要があります。在宅療養をするときには、この医療と介護の2つを組み合わせて在宅医療の方針やケアプラン(介護保険サービス計画)を決定し、要介護の人と介護を担う家族の生活を支援します。

<医療保険で受けられる在宅医療>
医療保険で受けられる在宅医療・看護は、大きく次の4つがあります。

①定期訪問診療
定期訪問診療は、計画的・定期的に医師が患者さん宅を訪問し、診療を行うことです。在宅医療では、この定期訪問診療が医療面の基本となります。
患者さんの状態によって月1、2 回、決まった日時に訪問するというケースが多いと思いますが、看取り期には週に数回など、頻回に訪問するケースもあります。
定期訪問では医師と看護師が自宅へ行き、血圧や脈拍、体温の
チェックや必要な検査・診療を行います。さらに食事や服薬、排泄
など、生活面についても本人やご家族と話をします。
定期訪問で継続的に経過をみていくなかで、患者さんの状態が変
わったときや、今後の変化が予想されるときは、在宅医療の方針も
その都度見直していきます。

② 臨時の往診
患者さんやご家族の求めに応じて、医師が自宅を訪ねるのが臨時の往診です。24 時間対応の在宅療養支援診療所(病院)であれば、夜間や早朝でも、電話をして往診を依頼することができます。
ただ臨時の往診は、救急車とは異なり、医師が駆け付けるまでに30 分~1時間ほどかかる場合があります。それでも、これまでの経過をよく知る在宅医が診るほうが、結果的に適切な医療につながるケースが多いようです。救急搬送が必要なときは在宅医が緊急入院の手配を行いますので、クリニックに連絡をしてください。

③ 訪問看護
訪問看護は、看護師が患者さん宅を訪問し、看護や日常生活の支援、介護のアドバイスなどを行うものです。訪問看護は医療保険と介護保険、それぞれで利用できます(26ページも参照)。
胃ろうや人工呼吸器を使用している人の医学的な管理、がんの緩和ケアなど、専門的なケアが必要なときには医療保険による訪問看護が入ることが多くなります。
医学的な管理が必要な人では、週に2、3 回など訪問看護を手厚くすると看護師が医療行為の多くを行えるうえ、介護をする人の不安にもきめ細かく対応ができ、在宅療養を続けやすくなります。

④その他(薬剤管理、栄養食事指導、歯科診療など)
・訪問薬剤管理
医師の指示によって薬剤師が自宅を訪問します。月に1 回、週に1 回など定期的に医師が処方した薬を届けるほか、薬の服薬状況や保管状況を確認する、複数の薬の飲み合わせ、同じような働きの薬の重複がないかなどをチェックし、医師にも報告します。

・訪問栄養食事指導
医師の指示により、栄養士が患者さんの自宅を訪問し、体調や病状に合わせた栄養の取り方や、その人の好みや飲み込む力(嚥下機能)、家庭の家事力に合った献立例などをアドバイスします。

・訪問歯科診療
歯科医師が訪問し、自宅でできる歯の治療や入れ歯の調整などを行うこともあります。嚥下の訓練など、食べ物を噛んで飲み込む機能を維持できるようにサポートするのも、訪問歯科医師の役割です。また歯科衛生士が、歯磨きや入れ歯の手入れ、歯磨きをできないときの口腔ケアなどについて指導することもあります。

■在宅医療で受けられる主なサービス
かかりつけ医などが自宅などでの療養が必要だと判断したときに、以下のサービスを受けられます。

一方、介護保険で受けられるサービスは、自宅で受けられるもの、介護施設で受けられるものなど、さまざまなタイプがあります。主なものを以下に挙げておきます。

①自宅で受けられる介護サービス
・訪問看護
看護師が定期的に患者さんの自宅を訪れ、清拭や排泄ケアなどの看護、褥じょくそう瘡(床ずれ)の治療などの医療処置、医療機器の管理、生活支援などを行います。1 回の訪問で1 時間ほど滞在することが多いため、じっくりと時間をとって患者さんやご家族に向き合うことができます。

・訪問介護(ホームヘルプ)
ホームヘルパーが自宅を訪問し、必要な支援を行います。料理や掃除、買い物、通院の付き添いといった生活支援のほか、食事介助、入浴介助といった身体介護を行うこともあります。
介護福祉士の有資格者や一定の研修を受けたヘルパーは、経管栄養や痰の吸引といった医療処置も行うことができます。

・訪問入浴
専門スタッフが訪問し、寝たきりの人や要介護度の高い人に対し、自宅で入浴介助を行います。移動入浴車で訪問する、専用の浴槽を運び込んで入浴介助をするといったケースなどがあります。

・訪問リハビリテーション
理学療法士、作業療法士などのリハビリの専門職が自宅を訪問し、リハビリテーション指導をします。通所リハビリ(デイケア)が難しい人で、医師がリハビリを必要と判断した場合に行われます。

② 施設で受けられる介護サービス
・デイサービス(通所介護)

利用者がデイサービスセンターや特別養護老人ホームなどの施設に通い、施設で生活支援を受けるサービスです。朝に自宅に来る送迎車で施設に行き、施設で食事やレクリエーション、入浴などのサービスを受け、夕方に帰宅します。要介護の人の生活を活性化するとともに、介護をする家族の負担軽減にも役立ちます。

・デイケア(通所リハビリテーション)
利用者が介護老人保健施設や病院などへ通い、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士からリハビリの指導を受けます。リハビリの内容には、手足の機能回復、立つ・歩くといった基本動作の訓練、家事のような日常生活動作の訓練、発語などの言葉の訓練などがあります。

・ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)
数日から数週間など、短期間だけ施設や病院に入所し、生活介護を受けることです。介護をする家族が体調を崩したとき、冠婚葬祭などで一時的に不在になるようなときのほか、家族の介護疲れの解消・予防のために利用することもできます。

③ 1 人暮らし高齢者などの見守りサービス
要介護度が高い人の1 人暮らしに対しては、看護師やヘルパーが24 時間体制で定期巡回する「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」というサービスがあります。夜間に自宅を訪問し、排泄ケアなどを行う「夜間対応型訪問介護」もあります。

④ その他(福祉用具のレンタル、住宅改修など)
介護保険サービスで、車椅子や歩行器、介護用ベッドなどの在宅介護に必要な福祉用具をレンタルすることができます。
また、在宅療養のために廊下やトイレに手すりを設置する、車椅子で移動できるようにバリアフリーに改修するといったときには、住宅改修費の補助を受けることができます。


引用:
『事例でわかる! 家族のための「在宅医療」読本』
著者:内田貞輔(医療法人社団貞栄会 理事長)
発売日:2021年6月1日
出版社:幻冬舎