フォローしませんか?
シェア
teepei
2023年12月23日 18:00
【第1話はコチラから】 詰め寄る阿倍に、武井がため息をつく。「してませんよ」「本当かよ」「そっちこそどうなんですか、本当は口にしたんじゃないんですか」「馬鹿言えよ。 俺はな、お前と別れたあとも、律儀に約束守ってたんだぞ」「本当ですか」「本当だよ。 嘘だと思うなら、その男に聞いてみなよ」 なあ、と阿倍は男を振り向く。 ああ、と応じる男を見て、満足そうに前へ向き直
2023年12月22日 18:00
【第1話はコチラから】***「なんで手袋をしてなかったんですか」 少女の家をあとにして、武井はすぐに広場へやってきた。 そこには着替えている最中の男と、バイト青年がいた。 その男が、少女からもらった手袋をつけているのを見て、それとなく武井が尋ねてみたのだった。 ああ、と男はつけた手袋をしげしげと眺めている。 無論五百円で買える代物ではなく、武井が出資したものではあったが、
2023年12月21日 18:00
【第1話はコチラから】*** 林が途切れて芝生が広がり、広場の向こうに夜景が広がる。その夜景を背に、確かに人影があった。「ほら」 と武井が促す。 少女はしばらく応じず、頑なに俯いていた。 それでも希望を持ちたい気持ちが勝ったようで、次第に頭が上がってくる。 その目に、人影を捉えたようだった。「行ってみようか」 立ち止まっていた足を、再び進める。 芝生を踏みしめ、
2023年12月20日 18:00
【第1話はコチラから】 それから、視線を再び足元へ落とした。 何度も言わせるなよ、という含みを感じ、武井は苦笑いする。「そうだよな、そう言ってたよな」 それから坂道の先へ視線をやり、武井は続けた。「俺もね、そう思ってたんだ」 かつて父親と歩いた光景を、悲しみを浮かべた表情を、まざまざと思い浮かべる。「俺も、そんな風に言って、お父さんを悲しませたことがあるんだ」 少女
2023年12月19日 18:00
【第1話はコチラから】 電話の向こうは、紛れもない武井の声だった。「どうしたよ、ん、今か。 いや、ほら、あの広場あるだろ、富士見が丘の。 そう、景色のいい、そう、そこにいるよ。 どうしたんだ」 聞こえてくる武井の声は、いつもの落ち着きを取り戻していた。 先ほどの様子は、どこにも見られない。 心配することは、もうないようだった。「え、ああ、いるよ、いる」 阿倍が男をチラ
2023年12月18日 18:00
【第1話はコチラから】「賭け、って言ってたろ」 男が続ける。「俺も、賭けをしてた。 あんたと、あんたの連れに会ったときから。 会いに行っていいわけないが、それでも一度くらいなら、って、割り切れないままこの街まで来て、とうとう自分では決められなくなっていた。 住所もあるが、どう行けばいいか分からない。 それで、あんた等に聞いて、分からなければ諦めようと、そう思ったんだ。
2023年12月17日 18:00
【第1話はコチラから】 答えて、男は夜景へと目をやった。 また無言だった。「刑務所に入る前」 男なりに機をみたのか、静かにそう話し出す。 そこで一度咳払いをすると、改めて切り出す。「俺は、刑務所に入る前、本当にだらしなくてな。 高校卒業して、すぐに入った会社を辞めてから、長く続いた仕事もなかった。 そのくせ、どこか自分をひとかどの男と思いたがっていた。 仕事はろくになか
2023年12月16日 18:00
【第1話はコチラから】「しかしここら辺も久しぶりだな」「ここへは、以前から」 男の会話にぎこちなさがない。 何かが、ほどけようとしているのかもしれない。「ああ、この丘は名前の通り、見晴らしがよくってな。 夜景がきれいなんだよ」「夜景」「そう、まだあるかな、見晴らしのいい広場があんだよ」 するとまた、男に無言の間が現れる。 阿倍の道案内もそろそろ終わりに近づいてい
2023年12月15日 18:00
【第1話はコチラから】 同時に、別れ際の武井が脳裏を過ぎる。「あれな、あの、何だか意固地になってたあいつな、今日明日にまつわる行事が嫌いなんだと。 それで、そんなに嫌いなら、いっそのことその日にまつわる言葉を禁句にしようって話になって…つうか、まあ、俺がしたんだけどな」 思い出した武井の頑なさが、妙に気に掛かる。 安倍は上の空で、男が口を開く。「今日明日にまつわるって、それは」
2023年12月14日 18:00
【第1話はコチラから】「それじゃあ何か、電話番号の分かるものはあるかな」 すると少女は紐で首にかけていたものをはずし、武井に渡した。 『連絡カード』と書かれていた。 電話番号と住所、名前が載っていた。 つかの間、手に取ったそのカードを見つめる。 見覚えのある住所に、もうひとつ果たすべきことを見つけていた。 携帯を取り出し、連絡を取ってみる。 出たのは母親だった。 心
2023年12月13日 18:00
【第1話はコチラから】 たどたどしく語ってくれた内容は、要領がつかめない。 それでも気になるところがあり、武井はひとまず聞いてみる。「サンタクロースは、いない」 うん、と肯き、それから少女は続けた。「お父さんがやってくれてるの、私知ってるもん」「それじゃあ、なんでプレゼントを」「だって、いないのは本当だし、でもそのままだったら謝れないし、だからプレゼントを買って、いるって
2023年12月12日 18:00
【第1話はコチラから】*** バス通りはやがて商店街を兼ね、アーケードの下を歩くことになった。 駅に近づくほど人が混み、クリスマスイブともなればさらに多い。 込み入った人垣の隙を縫い、女の子が位置関係を見失わないよう注意を払う。 デパートはまだ先だったが、着いたところで買うあては決まっていない。「どうしようか、プレゼント」 武井の投げかけに、歩きながら少女が武井を見上げる
2023年12月11日 18:00
【第1話はコチラから】*** 阿倍と男は武井と別れたあと、しばらくはそのままバス通りをいった。 相変わらず頻繁に行き交う自動車の群れは、すでにライトを点けているのが当たり前だった。「ところでよ、なんで刑務所になんか入る破目になったんだ」 とりあえず阿倍は踏み込んでみることにした。 しばらくは言葉を待ってみたが、そりゃあそうだよな、と阿倍は思い直す。「やっぱり話しづれえか
2023年12月10日 18:00
【第1話はコチラから】「買いにいけるかい」 安堵からか、先のことに気が回り始める。 それどころかそもそもの状況についてまで思考を巡らし始めていた。 プレゼントを買いに来ている。 ひとりで。「お母さんは」 と尋ねる武井に、女の子は表情の強張りを見せる。 警戒の時に見せた表情に似ていた。 さらにためらいのようなものを見せた間ののち、女の子が観念するように口にする。「おう