禁句 第13話
【第1話はコチラから】
***
バス通りはやがて商店街を兼ね、アーケードの下を歩くことになった。
駅に近づくほど人が混み、クリスマスイブともなればさらに多い。
込み入った人垣の隙を縫い、女の子が位置関係を見失わないよう注意を払う。
デパートはまだ先だったが、着いたところで買うあては決まっていない。
「どうしようか、プレゼント」
武井の投げかけに、歩きながら少女が武井を見上げる。
前方への注意が逸れ、その分を武井が補いながら言葉を待ってみる。
決まっていない、とは言っていたが、それがどの程度のことだろうか。
ある程度目星が付いているのか、それともまったく見当が付いていないのか。
後者であればウンザリだな。
そんなことを考えてしまう己を戒める。
少女は前方へ視線を戻す。
「お父さんは、何かほしいものがあるのかな」
待ちきれず、結局武井が話しかける。
しかし、少女なりに思案しているのかもしれなかった。
武井はさらに話しかけるか、黙って見守るかを迷う。
少女の様子は大分落ち着いていた。
途方に暮れていた頃に比べて、確実に進展しつつある。
その実感が、少女の中にもあるのだろう。
武井はもう一歩踏み込んでみることにした。
「どうして、お父さんにプレゼントするんだ」
先ほど、少女を大きく動揺させた質問だった。
その答えがプレゼントの品を決定付けることになる、とは思わなかった。
ただ、ことの発端を知りたいと思ったのだった。
それで少女が不安定になれば、自分を呪うしかない。
少女の視線が、再び武井に移る。
武井を少しだけ眺め、立ち止まる。
それから俯いてしまった少女の様子に、武井は早速おのれを罵倒し始める。
「お父さんにね、謝ろうと思って」
思いがけず、少女は事情を口にした。
危うく聞き逃しかけ、ひとまずおのれへの罵倒を収める。
謝る、と武井が聞き返し、うん、と少女が肯く。
「何か、悪いことでもしたのか」
尋ねながらしゃがみこみ、少女の顔をのぞきこむ。
俯いたまま、少女はの思案していたようだった。
人の群れが騒がしく、しかし、それは少女の沈黙から遠い出来事のように思えた。
「サンタクロースにね、お願いしないのか、って聞かれたの。
それなのに、サンタクロースなんかいないって言っちゃって。
そしたら、お父さん悲しそうにして。
それで、今日はおうちに帰ってくるから、お父さんの枕元にね、プレゼント置こうかと思って。
それで、サンタクロースはいたんだ、って、私謝ろうかと思ったの」
(続く)
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