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禁句 第14話

【第1話はコチラから】

 たどたどしく語ってくれた内容は、要領がつかめない。
 それでも気になるところがあり、武井はひとまず聞いてみる。

「サンタクロースは、いない」

 うん、と肯き、それから少女は続けた。

「お父さんがやってくれてるの、私知ってるもん」

「それじゃあ、なんでプレゼントを」

「だって、いないのは本当だし、でもそのままだったら謝れないし、だからプレゼントを買って、いるって言うことにすれば謝れるかな、と思って」

 幼いながらに、いや、幼いからこそ独特なその発想を、武井は気に入ってしまう。

 そして、サンタクロースはいない、というひと言が、かつての武井と重なる。

「お父さんは、いつもは家にいないのか」

「うん。
 仕事が忙しいんだって。
 それでね、この間の、幼稚園の発表会も、本当は来てくれるって約束してたのに、やっぱり来れなかったの。
 それで、お父さんが嫌いになったの。
 だけど本当は好きなんだけど、それで、サンタクロースはいないって、本当のこと言っちゃった」

 本当のこと、とはいささか悲しい。

 それでも武井は、父親に対する少女の気持ちを理解した。

 父親を悲しませたことへの後悔。

 叱られるような悪いことをしたわけではない。
 しかし、謝る他に応える方法が分からない。

 そして、武井を捉える言葉があった。

 嫌いになったけど、本当は好き。

 単純な言葉でつながる、幼なさ特有のぎこちない響きだった。
 微かながら、呼び起こされるものを感じる。

「そうか。それじゃあ、なおのこと、プレゼントを買って帰らないとな」

 腕時計をみる。
 七時を回っている。
 少女の家族は心配しているだろう。

「それじゃあ、プレゼントは買うにしても、お母さんには知らせないと」

「でも、お母さんに知らせたら、プレゼントは私が買ったってばれちゃうよ」

「お母さんには協力してもらおう」

 武井の提案に、女の子は俯く。

「お父さんにばれないかなあ」

「大丈夫だよ。
 むしろ、お母さんに協力してもらった方がうまくいくよ」

 うーん、と俯いたまま唸り、考えている。

 そのうち思いが定まったのか、武井を見上げて言った。

「わかった、そうする」


(続く)

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