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禁句 第15話

【第1話はコチラから】

「それじゃあ何か、電話番号の分かるものはあるかな」

 すると少女は紐で首にかけていたものをはずし、武井に渡した。
 『連絡カード』と書かれていた。
 電話番号と住所、名前が載っていた。

 つかの間、手に取ったそのカードを見つめる。

 見覚えのある住所に、もうひとつ果たすべきことを見つけていた。

 携帯を取り出し、連絡を取ってみる。

 出たのは母親だった。

 心配そうな響きを含んではいるものの、しっかりとした、気丈さを思わせる声だった。
 武井の話によく耳を傾け、少女の気持ちも汲み取ってくれた。
 その他に些細な事情を伝え、女の子を家まで送り届けることを申し出る。
 遠慮がちだった母親も、最後には、それではお願いします、と武井に委ねた。

 さてと、とつぶやき携帯電話をポケットにしまう。

 全てにけりをつけるべく、武井は動き出すことにした。

「それじゃあ、まずはプレゼント、何にしようかね」

 と、独り言とも話しかけるともつかない台詞をつぶやきながら、淡い期待を浮かべた女の子を見下ろす。


***


話しているのは、やはり阿倍ばかりに思えた。

 気にせず続けたが、話す言葉も途切れがちになる。

 思いつめた男の雰囲気は、会話を滞らせる重みがある。

 男の抱える事情がそうさせているのだった。

 阿倍にもそれは分かっていた。
 やりづらく思いながら、男に対して責める気持ちは湧かなかった。

 軽口を叩いて淀んだ空気を吹き飛ばすべきだとも思うが、何かがうまく行かない。

 安倍は歯がゆく思いながらも、そういう日もある、という程度で済ませることにした。

 通りを分ける分岐点に出る。

 一方は向こう側へと伸びていき、ほとんどの車がそちらへ流れていく。

 もう一方は阿倍と男の歩く側で、車の往来はほとんどない。

 その行く先は、徐々に上り坂になっていた。

「ここから先が、例の住所のところなんだが」

 阿倍が案内を済ませると、また無言の間が顔を覗かせる。

「賭けって、さっき」

 途切れた間の、やはり際どいところで男が切り出す。
 他愛もない話を振ろうとして、半ば口を開いた安倍は聞き逃してしまう。

「え」

 と聞き返し、しかし取り戻せるかは微妙なところだった。

「さっき、連れの男に、賭けがどう、とかって」

 淀みなく返ってきた台詞に、不意を食らうような錯覚を覚える。
 それから二拍ほど遅れ、阿部がようやく反応する。

「ああ、あれね」


(続く)

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