赤道会談

東京都在住。一生B-boy。東京をサバイブする人々をエッセイや小説で綴る人。

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マガジン

  • 麻道日記

    中編連作(まだ途中)

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短編 せわしさにかまけて

俺は、決めている。 未来から俺が俺に会いに来た時、絶対に驚かないでおこう、と。 映画や本の中でそういうシーンがあったら、大体のやつは、えー!?っとか言ってんの、だせーし、すぐ飲み込めよって思っちゃう。 もしタイムリープとか並行世界とかが現実になって、俺が俺に会いに行って、そのリアクションされたら萎える。多分うぇーってなる。きっと泣けてくる。 逆に、俺に会いにくるパターンのとき、狼狽えている姿を見せたくないし、 秒で受け入れる自分を、未来の俺は誇りに思うだろう。 だか

    • 麻道日記⑪

      俺たちはタランティーノの評価を間違い続けている。レザボアや、パルプフィクションに見られる、時系列をあえてシャッフルすることによる伏線回収の手管や、いかれたユーモア、トラッシュトークなどが一般的な彼の代名詞だろう。つまり脚本と編集の手腕だ。 だが、俺はそうは思わない。それは彼の本質を修飾する小手先に過ぎない。 観客が作品に没入するためにタランティーノが好んで多用する手法がある。 そう、密室での長回しだ。 サム・ペキンパーがスローモーションを多用したように、タランティーノは

      • 短編 弥生土器ヘイト

        2005年5月25日。 リバプール対ミラン。 チャンピオンズリーグ決勝。 イスタンブールで起きたこの試合を人は奇跡と呼ぶ。 前半に3点とったミラン。誰もが試合は決まったと思った。まさに盤石。だが、後半にドラマが待っていた。リバプールのスティーブン・ジェラードの強烈な追い上げで、あっという間に3点追いつかれて、最後はPKで屈した。逆転不可能と思われていた点差をジェラードが一人でひっくり返した試合だ。 あの試合を見ていた誰もがはっきりと感じただろう。サッカーは戦術とか理

        • 麻道日記⑩

          人類の持つ環境適応力がなければ、この脆弱な肉体が極寒のツンドラや、灼熱の熱帯を何千年にも渡って生存できたとは思えない。 空気と水と適温という条件さえクリアすれば、我々は意外とどこでも生きていける。昔理科の実験でやったもやしの発芽条件みたいだ。 つまり留置場で1週間くらいたつと、人は段々と慣れてくる。昼間、取調べのない時間帯は、少年マガジンを枕に、足を組んで寝そべって、漫画の彼岸島を読むくらいは環境に適応してきたということだ。 枕にするなら、マガジンよりコロコロだな、 と

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        短編 せわしさにかまけて

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        • 麻道日記
          11本

        記事

          麻道日記⑨

          マコトちゃんは、例にも漏れず、 もともと誰の知り合いで、誰経由でつるむ様になったのか分からない。 ナベさんは自分だと言うが、誰もそれを確かめようがない。 人がその人生で何人くらいの人と関わるのか分からないが、憧れる人の数は僅かにみえる。 俺はそもそもガードが低く、憧れの浮気体質で、相手の性格や動きや容姿も含め、自分に無いものにいちいち反応しては傾倒する。 だから俺がマコトちゃんに初めて会った時に、所作に感じるところがあって、この人とつるむんだろうな、という予感は既

          麻道日記⑨

          2023年 マイ五つ星book

          やだ、もうこれ最高!と認めるボーダーラインが日々高くなっているのか、 集中力や没頭力の低下によるものなのか、2023年に知り得たものの中で、 5つ星を付けられるものは多くはなかった。 それでもやっぱり、脳髄がしびれるような作品との出会いがたまーにあり、 それがあるから、マイニングが辞められない。 そんなしびれる作品が以下。 ※注意※ 例のごとくうる覚えの垂れ流しなので、誤字脱字はご容赦を! 国内、海外、ジャンル問わず何でも読みます。昨年読んでよかったもの。 ・「

          2023年 マイ五つ星book

          短編 参画死角

          人間力は社会へ参画した時間や量に比例するという真実をもっと先に知りたかった。 人間力とは、へこたれない力のことだ。 諦めたり、弱音を吐かない胆力のことだ。 色んな本や映画にもそんな感じのエッセンスをまぶした訓話があったけど、たった1行にも満たないこの真実のこと、もっとみんな言っていった方がいい。 社会への参画とは、学校、会社、ボランティアとか、そういう堅苦しいのから、友達、恋人、家族と話すことみたいなライトなものも含まれる。 つまり、人間力とは他者と関わっている時

          短編 参画死角

          短編 ひらけゴマ

          私があのとき片瀬さんの肩を持ったのは、別に貫くほどの自分があったわけじゃなくて、もう全部どうでもいいと、腹の底から思ったからだ。 第二制作部の真ん中で下劣を激しく叫んだ帰り道、だんだんと冷静になるにつれ、あ、これ後から死ぬほど後悔するやつだってことに気づいた瞬間にはもう消えたくなっていた。 私はいつも人との関係で最後にしくじる。嫌な終わり方で別れ、そのままにしてるんだからそりゃあ仕方ない。余計な一言で相手を傷つけてしまう。 それって突き詰めたら、私が世界をひれ伏

          短編 ひらけゴマ

          短編 悪魔くん

          やあ、ようこそ。こんな世界の片隅へ。 Googleの波をかき分けて、よくぞここまで辿り着いたね。あんたに会えて嬉しいよ。 せっかくここまで来たんだ。少しゆっくりしていくといい。 自己紹介から始めよう。 俺の名前は悪魔くん。そう、あの悪魔だよ。 一応断っておくが、水木しげるは関係ない。たまたま名前が一緒なだけだよ。 俺はただ悪魔みたいなことしか言わないだけの無害なやつだよ。 俺は誰よりもあんたのことを知っている。 もう一度言おう。そう、あんたことを誰よりも知っているぜ。

          短編 悪魔くん

          娯楽で解決しないなら

          人生は睡眠と移動と雑事と余暇で出来ている。これマジ。 そんで、睡眠と移動が6割を占め、雑事を含めると9割になる。いや、クソつまらんな、人生。 だからその残り1割の余暇の過ごし方が一大事になって、我々はそこにテクノロジーだ何だを総動員し、何とか割合を増やそうとするのだが、前述の通り、そもそも睡眠と移動で7割はいかれている。こうしている間に1割増えてる。そう、最初から負け戦なのだ。 残り3割だぜ、どう頑張っても。イチローじゃないんだから。 結果、手の届く範囲で娯楽を浴びて

          娯楽で解決しないなら

          粗品の理由

          粗品という芸人がいる。霜降り明星というお笑いコンビのツッコミで、M-1チャンピオンであり、R-1チャンピオンでもある。 これはひとりのお笑い芸人を考察したフィクションである。 まず筆者は粗品のファンではない。彼の言う、投げ銭少額者を指して言う、細客ですらない。 たまにyoutubeのチャンネルを覗くくらいの通りががりのおっさんだ。 彼は、とにかく他方面にケンカを売る。売られたインフルエンサーはもちろん、そのファンまでも攻撃する。 ファンからすれば、たまったもんじゃな

          粗品の理由

          短編 マイコンピュータの隅の方

          「なあ、俺たち何を勉強させられてんだ。」 「知らねえよ。とにかくあと2時間で覚えるしかねえだろ。」 「プトレマイオス朝ペルシアはセレウコス朝やアンティゴノス朝とともに、いわゆるヘレニズム国家の一つに数えられる。だってよ。」 「おい、問2みてみろ。プトレマイオス朝は何王朝ですか?って、なんだこれ禅問答か。」 「や、答えはギリシア・マケドニア系のエジプト王朝だって。わけ分からんぞ。本格的にやばいな世界史。」 世界史の追試の追試で視聴覚室に集められた数人。実は喋ったことも

          短編 マイコンピュータの隅の方

          短編 セワシが着てたアレ

          あの銀色の服。 私はずっと待っている。 悪いけどカッコイイと思ったことはない。 というか、ダサいまである。 だけど、それが店に並んだとき、一番に買いに行きたいとは思っている。 それは、ただの「未来を実装したい欲」なことは自分が一番分かっている。 あの未来の銀色の服。 上下セット、もちブーツも買う。 上のシャツは絶対にインな。 最初はドルガバとかVUITTONから出て、そのうちユニクロが廉価版出して、カラーバリエーションなんかコーデして、 あれ?カシミア銀セットじゃん

          短編 セワシが着てたアレ

          短編 愛と幻想のゼロ・グラビティ

          僕らは思っているよりずっと孤独なのかもしれない。 これはポストモダン的な内省的な文脈じゃなくて。 人がいなくて、みんな一人で働いてない?って話。 * 次の自動販売機を目指して車を廻りこんで運転席へ急ぐ。 くそ、なんで左車線走らせといて右ハンドルなんだよ。 って、いつもの愚痴を頭の中で繰る。 配達関係に従事したことがある人は分かってくれる。車が左ハンドルだったら、マジで一日に2~30分は節

          短編 愛と幻想のゼロ・グラビティ

          殿!

          「殿!恐れながら!」 座したまま畳の目を凝視して息を吐く。 「よい、申せ。だがその策に命を懸けよ。」 じっと額の脂汗が吹き出すのを感じる。 丹田に力を入れる。 「先の詮議にて仰せは早計かと。然るに左大臣の策を上策とし、先ずは補給線の確保を。」 一気に、静かにまくし立てる参謀のこういう台詞が言いたい。顔は堺雅人か岡田准一がいいな。2週間に1回は、夜寝る前に軽く練習だってしている。 だが俺の人生には、この

          太陽も月も

          「ひとりにしてよ!」 って言ったら、マジでそうされたから、 「なんで?分かってくれないの!」 って怒ったことがある。 チェック。 「なんでミスをしたのか説明して」 と言って、説明される前に、 「言い訳しないで」って怒ったこともある。 チェック。 相手は違えども、「えーうそー?」っていうウンザリした顔は、みんな同じだった。 チェック。 私たちはしょせんこんなもんだ。 二律背反の中をなんとかサバイブしている。 *

          太陽も月も