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バーチャル臨床試験のマーケット

近年モバイルヘルスデバイスが臨床試験に用いられ始め、バーチャル臨床試験が台頭してきました。以前特殊なビジネスモデルの製薬企業として紹介したRoivant Scienceでもバーチャル臨床試験が行われており、今後その普及に伴って市場に大きな変化が予想されています。

バーチャル臨床試験とは、従来の臨床試験とは異なりオンライン診療やウェアラブルデバイスによるデータ収集を利用した参加者の自宅,もしくは自宅近くの医療機関で行われる臨床試験を指します。

2020年の新型コロナ感染症パンデミックより増加した遠隔医療への需要と今後も予想される継続的な遠隔医療の市場規模に併せて臨床試験のかたちにも変化が起こっています。


バーチャル臨床試験のメリット、デメリット


バーチャル臨床試験のメリットとして研究離脱率の低下と施設へのアクセス、データ量の増大が挙げられます。

2015年のタフツ医薬品開発研究センターの研究から従来の臨床試験参加者の49%は試験完了前に試験から離れることがわかっています。そこでバーチャル臨床試験の導入により家庭から研究に参加してもらうことで離脱率の低下が期待されています。

またウェアラブルデバイスや遠隔診療によって被験者は場所を選ぶことなく研究に参加することが可能であり、来院コスト等の経費削減と取得データの増加にも繋がっています。

これらに対してバーチャル臨床試験のデメリットとしては研究参加者のデバイスの扱いやデータの統合、規制当局による規制が挙げられます。

遠隔で行われ、患者と治験担当医師の直接の接触がない故に参加者の中には配布されたデバイスの扱いに不安を覚えることや扱いを誤る可能性が示唆されています。他にもウェアラブルデバイスを使うケースと直接臨床試験に参加してもらうケースで測定方法とその結果に差が生じるためにそれらの見方が課題と挙げられる等、技術の進歩速度に社会としての制度が追いついていないことが課題だと考えられます。

市場規模

GrandViewResearchによると世界のバーチャル臨床試験の市場規模は74億ドルと考えられており、2021年から2028年にかけて5.7%の年間平均成長率で2027年までに145億ドルを超える市場に拡大すると予想されています。

中でも試験対象としてはOncology(癌などの腫瘍)が全体の約25%を占めています。これは世界的な癌の症例数の増加とCOVID-19パンデミックによる遠隔での試験需要が高まりが原因だと考えられます。

2019年6月までの時点で約14,000件の腫瘍学試験が行われ、その参加者の内の3~8%は高齢者等で登録率が低い状況にありました。この様な状況を改善する手段としても遠隔で行われる臨床試験の需要は高まることが予想されます。(下図のCardiovascularは心血管疾患)

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地域別では2020年の北米のシェア率が全体の49.4%で最大となっていますが、アジア太平洋地域では今後6.8%で最速の年間平均成長率になると予想されています。

バーチャル臨床試験の前例

これまでに行われたバーチャル臨床試験の前例として、2011年にファイザー株式会社によって「物理的に研究施設へアクセスすることなくデータを収集する」ことを目的とした最初の遠隔臨床試験が行われました。

その後も2015年にヨーロッパで糖尿病に対する3G対応ワイヤレス血糖値計を用いた臨床試験や2017年にカナダでビデオ通話のみによって行われた産後うつ病に関する研究等も行われています。

2018年に行われた脳卒中後の感覚運動及び認知機能改善の為の研究でモバイルヘルスデバイスによる遠隔監視が行われました。

同じく2018年にApple Watch Series4がFDA(アメリカ食品医薬品局)から心房細動(AFib)または洞調律を判断するアプリとしてClass IIDe Novo認証されました。

近年ではウェアラブルデバイスの普及の精度向上から臨床試験に用いられることが増えています。

ウェアラブルデバイスの活用

ウェアラブルデバイスの設計開発, コンサルタントを行なっているThrive Wearablesによると2020年にはウェアラブルデバイスを用いた臨床試験は約1400在り、その内540は既に完了しています。また今後は全臨床試験の70%でウェアラブルデバイスが用いられるようになると予想されています。

これまでの使用例として、

臨床研究のサポートに取り組んでいるKoneksa Healthという企業は震え、硬直、動きの鈍さ、歩行困難などの症状を伴うパーキンソン病の臨床試験データとしてApple Watchのデータを利用

国立癌研究所主導の歩数と入院リスクの研究にもApple Watchのようなウェアラブルデバイスが用いられました。

2018年のApple Watchによる心房細動検知がFDAに認可された後の2019年よりFitbitはThe Bristol-Myers Squibb-Pfizer Allianceと共に脳卒中のリスク検知とそのサポートへの取り組みを開始しました。

2020年にFitbitも数十万人規模の心房細動を特定する為の研究Fitbit Heart Studyを開始

ClinicalTrials.govよりこれらウェアラブルデバイスを使った臨床試験実施フェーズはPhase 4が最多であり、その対象疾患として最も多いのはパーキンソン病と心不全でした。

これら技術の進歩とそれに伴う需要の変化に対応する為に政府としての動きも見られ、2015年頃よりFDAも医薬品開発の新しいガイダンスを順次発出しています。

バーチャル臨床試験に臨む企業

PRA Health Sciences

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世界規模で製薬会社の医薬品開発の為の臨床試験を受諾。90を超える国々で16,000人以上もの従業員。2000年以降、当社は約3,800件を超える臨床試験を世界で実施した実績を有しています。さらに、米国食品医薬局(FDA)やその他国々の規制当局から85以上もの医薬品の承認取得に繋がった臨床試験に取り組んできています。

2016年より武田製薬とパートナーシップを結んでおり、2019年から日本でも製薬やバイオテック、アカデミアなどでサービスを提供。近年ではウェアラブルデバイスを用いた分散型臨床試験にも力を入れています。

Signal Path

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2014年に設立され、試験現場で臨床研究を実施する際の容易さや品質、有効性を強化するためのCTMSプラットフォームをデザインしました。これまで250の地域で2500件以上の臨床試験をサポートしてきており、3,000以上のアクティブユーザーを抱えています。

2021年に同じく臨床試験を業務とするVerilyにより買収され、Verilyの臨床試験プラットフォームBaselineとCTMSの統合により今後さらに分散型臨床試験が普及すると考えられます。

最後に

今回はバーチャル臨床試験について、その概要と市場規模、前例、取り組む企業をまとめてみました。分析可能なデータが増えることで今後の新薬開発や研究が進むと考えるとこれらの情報も頭に入れておく価値はありそうです。

読んで頂きありがとうございました。

弊社ではウェアラブルデバイスのデータを活用した研究のデータ取得から解析までのサポートをしております。
TechDoctor株式会社:
https://www.technology-doctor.com/






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