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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑱

「まさー、チャーハンつくってくれー!!」

今日も元気にハマさんの声が響く
2件先の店舗からフロア中、いやビル全体に響く声で
チャーハンを注文してくれるのだ。

「ありがとうございますー‼」

お互いに顔は見えないが
その掛け声は、お客さんが来てるよという合図に近いものだった。

ハマさんは自分の店では乾き物が中心のため
お腹が空いたお客様がいると、決まって料理を注文してくれた。

特にハマさんのお気に入りはチャーハンだった。

「まさの料理の中でチャーハンが一番美味いけんなぁ」

料理ド素人の私からしたら最高の褒めことばだった。

しかし、店を始めるまでチャーハンなど
家でたまにつくるくらいだったが
到底、美味しいと言えたものではなかった。
味はそこそこ良くても、米同士がくっついていたり
固まりになっていたりと少し不格好なチャーハンしか作れなかった。

それでも、
店でつくるチャーハンはまるで別人が作ったかのように
ハマさんが認めてくれるようになったのには訳があった。

その要因は火力だった。
これが違うだけで
プロが作ったかのような味になった。

当時、中華鍋がなかった店舗で大きめの鍋を強火で温めだした。

フライパンが熱されて程よい煙がフライパンから立ち上がる

その間にキッチンスペースには
溶きたまごや冷凍された米、予めみじん切りされた玉ねぎを用意する。
ここからはスピード勝負だ

熱されたフライパンの中にラードを入れると
一瞬でその固形物はすべての料理を包み込む潤滑油にかわった。

続けて小さなボウルを手に取る
白身と黄身がよく混ざったたまごは黄金色に輝き
チャーハンを引き立てる名脇役と化していた。

その名脇役を煙の中にダイブさせると
潤滑油と名脇役が見事なハーモニーを奏でる

そのフワフワでとろとろとした
絨毯の中に主人公を飛び込ませる。

純白の固まりだった主人公は
ひとつひとつの粒に分かれて
それぞれが脇役に包み込まれていた。

それぞれが独立して
粒ひとつひとつが際立っていた。

その上で玉ねぎ、ひき肉などの
さらなる脇役を登場させる

塩コショウと塩で調整すれば
ハマさんお待ちかねのチャーハンの出来上がりだ。

皿に持った瞬間にすごく品の良い香りが
鼻の中を駆け巡る。

自分でも自身がつくった料理が
こんなにも食べたくなるなんて思ったことなどなかった。

その自信作をもって
ハマさんの店に向かう。

「失礼します‼お待たせしましたー!」

意気揚々と店内に入ると
数名のお客様に混じってハマさんの姿が見えた

「おう‼まさありがとう‼多めに持ってけ!」
そう言って値段以上の料金を渡してくれるのが日課になっていた。


「あぁ、まさ‼そういや隣の店のスタッフの子まさと同い年よ。」

唐突にそう言われて隣の店の方と挨拶できていないことに
申し訳なさを感じていた。



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