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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話㉑

ガチャっとカウンター背後の扉が開いた

その物静かな洋楽が流れる店内にふさわしい
キレイなヨーロッパ人の美女が入ってきた。

「Buna ziua(ブナ・ズィア)」

さっきまで日本語で話していたユーリが
いきなり流暢に海外の言葉を話しだした。

急に海外にいるような空気を感じた私は
ものすごい高揚感に駆られた。

言葉はわからぬままだが
その空気だけでヨーロッパに行ったような気分になった。

そのヨーロッパ美女もカウンターに座った
ほのかに香る香水の香りが
いかにも夜の店の仕事を始めたんだなという気持ちにさせた。

ユーリが喋ってる一方でエマに唐突に聞いた

「ユーリってどこの国出身なの?」
見るからに北欧だろうなと予想しながらその答えを待つ。

「ルーマニア人だよ」
その答えには納得だった。
おそらくお客さんの女性もルーマニア人なのだろう
よく分からない言葉で話続けているが美男美女が話している光景に
ルーマニアが”世界一美男美女の国”と言われるのが納得できた。

その数分後、ルーマニアの女性を筆頭に
多くの外国人女性が入ってきた。

その出で立ちから
中洲の仕事終わりというのが容易に想像できた。

すると今までのおしゃれなbarが嘘のような変貌を遂げる
「ドンッ♪ドン♪」
その身体全体に響きわたるような重低音に
店内で何が起きたのか頭が混乱した。

流行りの洋楽が大音量で流されたのだ
その音量はカウンターの隣にいる人の声も
聞こえないくらいの音量だ。

更なる重低音に身体の感覚もおかしくなる

”なにこれ?”とうるさすぎて店内を出ようとした
そのときだった。

カウンターにいた美女におもむろに手を取られて
店内中央のちょっとしたスペースに向かう。

意味がわからない以上に
その端正な顔立ちとほのかに香る香水に
魅了されていた。

そうやって息を付いたのも束の間
いきなり手を取って踊り始めたのだ。

目の前で踊る姿に
高揚しつつも
”これが日本と海外の差かぁ”と
痛感させられるほど華麗なダンスだった。

他のお客さんもそのダンスに続く
ヨーロッパ人の女性ばかりの中
踊るという不思議な体験に心踊らされた。

とんでもない異世界が扉挟んで隣にあったことに
妙な嬉しさを感じた。

その高揚感のまま
ユーリにお会計をお願いした。

「ユーリ、もう帰るよ‼」
慣れないダンスでクタクタな状態で
ユーリに声をかけた

「ショウタ、アリガトウ!コレカラモヨロシク!」
それだけ言って帰らされた。

その日に飲んだ分をサービスしてくれたのだ。
まだ22歳だった私はありがたくそのまま隣の店に戻った。

隣にいても聞こえてくる大音量と重低音は
もう一度、あの場所に行きたいと思わせる程
不思議な体験だった。



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