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酒好きになり店を出したら人に騙され人に救われた話⑲

ハマさんの一言からその出会いが始まった。

「そういや、隣のスタッフの子まさと同い年よ」
その言葉から隣の店への興味が一段と高まった。

どうも、事前に得た情報によると
隣の”ecstasy”というBarはルーマニア人が経営しているらしい。

まだオープンして間もなかったため面識はなかった。

唯一、わかっていることは夜の12時から店が開いて
朝まで営業するスタイルということは聞こえてくる音で把握できていた。

とある平日
23時もまわり、店じまいをしていた頃だった。

「ガチャっ」
廊下越しに鍵が開く音が聞こえる。

”噂のルーマニア人が来たんだな‼”
そう思いながらも一歩踏み出せずにいた。

”日本語が伝わらなかったらどうしよう”
”ぼったくられたらどうしよう”

そんな思いもあって踏み出せずにいた。

そんな気持ちを懐きつつ
店終いを終え、少しカウンターでゆっくりしていた。

普段なら扉を閉めるところだが
隣の店に行きたい気持ちもあって店の扉は開いたままにしていた。

そろそろ帰ろうかなと思ったその時だった。

「すみません、今いいですか?」
廊下越しから若い女性の声が聞こえる。

その声に反応して
振り向くと同い年くらいであろう女性が立っていた。

茶髪でカラコンも入れているのだろうか?
容姿の整った女性は続けてこう続けた。

「なにかご飯つくれますか?」
その少し片言にも近いような言葉に躊躇した。

雑居ビルの5階で新規のお客様など
ほとんど来ないビルだ。
しかも、深夜24時を回って女性ひとり。

少し混乱と緊張もありながらとりあえず、店に入れた。

「一人で飲んでたんですか?」
この質問に対して女性は笑顔でこう返してきた。

「隣で働いてるエマって言います、宜しくお願いします!」

その笑顔に少し照れながらも
この人がハマさんが言ってた人かとすぐわかった。

年齢も自分と同い年の23歳だった。
中洲で働いていて、夜になると隣の店に手伝いに来ているらしい。
そして、片言の理由は物心つくまでフィリピンに住んでいたそうだ。


「お腹すいた…」
照れくさそうにエマから言われてふと気づいた。
なんとなく、雑談をして楽しかったのだろう。
料理をつくることをすっかり忘れていた。

「チャーハンならいけるけど」
とりあえず、ハマさんお墨付きのチャーハンを推した。

「うん、それちょうだい‼」
笑顔でエマが答えた。


「お待たせ‼」
そのチャーハンの香りに更にエマが笑顔になった。

「ありがとう、頂きます‼」
無言で食べる仕草を固唾をのんで見守った。

少し、無言のまま食べ進める様子に緊張が増す。

そして、少し間をおいてスプーンを置くと口が開いた

「おいしい!!」
初対面の女性に出した料理で美味しいと言われて
とても嬉しかった。

「後で、隣おいでよ‼」
隣に行こうか躊躇していた自分にとっては
とてもありがたい話だった。

エマがチャーハンを食べ終えると
そのまま一緒に店に向かった。

ecstasyと書かれた扉が
いつもに増して重厚感のある扉に見えた。

”この中にルーマニア人がいるんだ”
そう思うとワクワクが更に増して行った。



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