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「エンパシー・オリエンテッド」の時代

column vol.321

「会社へは 来るなと上司 行けと妻」

第34回「第一生命サラリーマン川柳コンクール」1位だった作品です。

〈ITmediaビジネスOnline / 2021年5月27日〉

コロナ禍の世界を上手く表現しつつ、お馴染みの夫の悲哀が漂う内容に、自分も若干(…?)妻に思われているのではないかと背筋が伸びる気分です…(汗)。

そんな中、人工知能研究者で脳科学コメンテーターの黒川伊保子さんの「夫婦についての話」にハッとさせられました。

必要なのは「手伝い」ではなく「ねぎらい」

黒川さんのお家では、買い物から帰ったら、旦那さんもお子さんも、みんな黒川さんの元に駆け寄り、買い物袋を持ってあげたり、手をさすってあげることをルール化したそうです。

〈NEWSWEEK / 2021年5月27日〉

私が、買い物袋をカサカサいわせながら玄関のドアを開けると、リビングで寛いでいた夫や息子が、跳び起きて、走ってきてくれる。夫が荷物を受け取り、幼い息子が手をさすってくれた。私は、その度に、「この家族のために、何でもできる」と思ったものだった。

ここで黒川さんが大事にして欲しいと訴えるのは「手伝い」ではなく「ねぎらい」であるそうです。

女性脳は共感とねぎらいで、ストレス信号を減衰させる。家事を手伝ってくれることもたしかに嬉しいけど、家事をねぎらってくれることのほうがずっと大事

なるほど…、私の妻を頭に浮かべてみても、まさにその通りだと思います。

私が大量の洗い物をしたとしても、水切りトレーの下に溜まった水を放置しておけば妻は不機嫌になりますし、逆に、朝、もうすぐ起きるだろう妻に白湯を用意しておくと上機嫌になる。

労力を考えると前者の方が貢献しているので、彼女にとっては良いのですが、「良いこと」と「嬉しいこと」は違うようです。コロナ禍で一緒にいる時間が多いとそのことを痛切に感じます。

黒川さんの買い物袋に話を戻せば、次のことがポイントなります。

要は「重くてつらいから手伝ってほしい」のではなく「ここまで500m重い荷物を指に食い込ませながら歩いてきたことをねぎらってほしい」からだ。

大切なのは「思いやり」「共感」「リスペクト」など相手の立場で想像すること。いかに自分の立場から離れて、相手の立場で考えられるか。最近は特にそのことが重要だと思います。

「シンパシー」ではなく「エンパシー」

劇作家の平田オリザさんは、このように話します。

「シンパシー(同情)はあっても、エンパシー(共感)がない。会話はあっても、対話はない。これが今の日本社会です」

〈HUFFPOST / 2021年6月3日〉

「今年初め、トランプ氏の支持者が連邦議会議事堂を襲撃しました。多くの人は、あの行為自体はまったく同意できないはずです。しかし、トランプに投票した7000万もの人々の悲しみを理解しようとする努力は、必要だと思いませんか?その悲しみに理解を示さないと、分断を乗り越えることはできません

昨日、フジテレビ『ワイドナショー』松本人志さんが「多様性が大事と言いながら、全然多様な意見が言えない世界」と仰っていましたが、確かにそうかもしれません。

よく「不寛容社会」とも表現されますが、今の世の中、はみ出た意見は言いづらい傾向にあります。

本当のダイバシティ社会を築きたいのであれば、自分の正反対の考えであっても尊重したいところです。それを叶えるのがエンパシー(共感)です。

エンパシーには、理解し難い相手のひととなりを細部まで具体的に想像する訓練が大事なのだと平田さんは語ります。

自分の考えと相反する考えの人を細部まで思い浮かべることで、相手のことが理解できるようになる。そうして自分と相手の接点を見つけることできるというわけです。

意見が異なる人の「弁護士」になる

自分の意見が強かった30代前半の時に、当社の創業メンバーで私が尊敬するHさんにこんなことを言われました。

「意見が異なる人に対して、自分が弁護士になったつもりで弁護してみろ。一旦味方になることで、自分の至らなさ相手の譲れない思いに気づくはずだ」

この言葉はその後の自分の人生を変えた言葉でした。

もちろん、どんなに相手の立場で考えても弁護し切れないこともあります。しかし、そんな時は相手の弱さを思いやれば良いわけで、その弱さとどのように向き合ってあげるかが、とても大切なことだと思うようになりました。

また、よく「あの人は、こういう人だから」と決めつけてしまうことがありますが、それは自身の驕りの可能性があり、複雑怪奇な人間の心なんて、そんなには簡単には分かりません。

逆に自分の尺度で決めつけているだけかもしれませんし、そうなると、当然、相手のことが分からなくなってしまいます。

だからこそ、分からないことを当たり前としながら、ひとつ一つの相手の思いに向き合うことが大切なのでしょうね。

白湯を妻のために準備して喜んでもらったからといって、その後、それがただのルーチンになってしまうと元も子もありません。そのことを忘れてしまうと、サラリーマン川柳の悲哀を味わうことになるのでしょう…(汗)。

まずは一番近い妻から。自分の共感力を高めていきたいと思います。

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